本日2020年1月16日は、アメリカで禁酒法が制定されてから、ちょうど100年となる。
において、これまでアメリカ、イギリス、日本での禁酒運動を見てきた。
それぞれの国の禁酒運動を俯瞰していくと、
アメリカ:1600年代から1700年代を通じて、プロテスタント派キリスト教的価値観から道徳的価値観と文化的要因に基づいて進められた禁酒運動は、1800年代に入り政治色を帯びていき、世界大戦争を契機に経済的要因が絡んでくるようになった。
イギリス:1800年代から社会変革を要求するチャーティズムの一環の政治的活動として始まった禁酒運動であったが、次第に宗教色を帯びていき、アメリカ同様に大戦を契機として戦時利用および経済的側面を呈していった。
日本:キリスト教布教の一環としてスタートした禁酒運動であったが、次第に近代化のための手段として位置づけされるようになり、大戦中に富国強兵などの考え方とともに、経済政策として利用された。
戦争を契機に禁酒運動が伸長するなど、一見してわかる類似性もあるが、より大局的に見ると、これら禁酒運動は大きく二つの類似性を有しているといえる。
禁酒運動が社会のパラダイムシフトの一環として機能した
禁酒をめぐる概念がより多面的になってきている
1.禁酒運動が社会のパラダイムシフトの一環として機能した
広島大学の岡本勝教授が自身の著書で看破したように、アメリカにおける禁酒法は、酒造業界に紐づく売春、賭博、地方行政の汚職といった20世紀型の酩酊の文化からの覚醒という側面を持っている。
チャーティズムの一環として禁酒運動がすすめられたイギリスや禁酒運動を近代化の一ステップと捉えた日本においても、同様のことがいえる。
20世紀型価値観からの覚醒、社会改革を目的としたチャーティズム、近代化や文明化、それぞれ少しずつ異なるが、意味するところは従来社会からのパラダイムシフトであり、その一端として禁酒運動を位置付けることが可能である。
2.禁酒をめぐる概念がより緩やかかつ多面的になってきている
数世紀来の禁酒運動が今日に直接的に結びついているとは思わないが、『禁酒運動の亡霊』で見てきたように、お酒を飲まない層の残り火が確かに残存しており、きっかけさえあれば再び燃え上がることは間違いない。
今日のノンアルコールムーブメントは、当時の飲酒を「悪癖」「道徳的堕落」「罪」などという言葉で語るような極端なものではない。
むしろ社会的なマイノリティへの配慮に近く、その点、個人の個性の尊重、ダイバーシティ理解といった文化的色合いは強くある。
また飲まない人が増えてきている現在、レストラン側はノンアルコールでも客単価を上げる方法を考慮しなければならない。
これについてゲコノミストの藤野氏はノンアルコール市場は酒類市場の10%、つまり3000億円市場の可能性があると述べている。そういう意味合いでは、経済的な側面も強く存在しているといえる。
このように見ていくと、お酒の捉えられ方が当時の世相をいかに反映しているかということがわかる。
「水の如し」といった具合に、お酒は社会の隅々まで広がっていくため、当時の時代の動きとともに流転していく。
宗教的新天地を目指したプロテスタント派キリスト教にはじまり、時に自らの属する階級がよりよい待遇を受けるに値する証として禁酒という概念が捉えられ、時に近代化・文明化の一手段として捉えられてきた禁酒は、今日DIVERSITYやLGBT、SDGsといった価値観の中で語られるようになってきた。
古今東西それぞれの社会に根付き市井の人々ののどを潤してきたお酒なればこそ、その液体を通じて逆に社会を見通すこともできるのかもしれない。
▶関連記事を読む
『100年前の高貴な実験』:https://bit.ly/3adAPDi
『禁酒運動の亡霊』:https://bit.ly/388NTbr
『イギリスの禁酒運動』:https://bit.ly/2tWmL0C
『日本の禁酒運動』:https://bit.ly/384TsYk
Comments