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缶ワインから学ぶ消費行動の変化の広がりと影響 - 現状分析編 -

更新日:2022年9月15日





プレミアムチリに学ぶ脱成熟とリブランディング』に引き続き、二回目のワインケーススタディは缶ワイン!


相手にエチケットが見えるようにボトル持って、恭しくワインを注ぐ。そんな伝統的なワインの在り方に今変化が起きている。


日本でもコンビニやスーパーなどでも見かけるようになってきたが、缶でワインを飲むという新しい消費形態が台頭しつつある。


今回は、缶ワインの可能性と将来性を同じく飲料業界のインスタントコーヒーと異業種であるゲームボーイとの比較から見ていきたい。


まずは缶ワインの現状を理解するところからスタートする。


缶ワインの現状

►アメリカ市場における缶ワイン


缶ワインと聞いても、まだまだ顔をしかめる人は多いだろう。

海外でも最近になって伸びてきた分野であるので無理もない。


アメリカで缶ワインが初めて登場したのは2003年、コッポラが187mlサイズの缶ワインを販売している。


それから少し時間はかかったものの、近年の伸びは顕著であり、アメリカ市場においては2012年時点で200万ドルほどの市場規模であった缶ワイン市場は、昨年は6900万ドルまで成長しており、EJガロやトレジャーワインなど、アメリカワイン業界の巨人たちも進出してきている。


缶ワインの生産者数も2015年には10社程度だったのが、2018年には100社を超えている。


このような背景として、以下のようなことが挙げられる。


  • 支出を抑える倹約志向

  • 適度な量を楽しむ健康志向

  • ワイン消費の場の多様化


これまでは、よりフォーマルな形で楽しまれていたワインが、現在はミレニアム世代を中心により屋外をはじめ、より場所や価格的にもカジュアルに楽しまれるようになった。


►缶ワインのメリット


では、缶ワインのメリットとは何だろうか?


  1. 場所を選ばずに楽しめる

  2. グラスやオープナーなどを必要としない

  3. 少量から楽しめるため手に取りやすい

  4. 密閉性に優れてワインの劣化を防ぎやすい

  5. アルミニウム缶を用いることで環境に優しい

  6. 瓶よりも写真映えする


これは換言すると、


  • 既存の消費形態の簡素化(1~4)

  • 現代的価値観との合致(5,6)


ということになる。


►日本市場における缶ワイン


日本市場における缶ワインについての市場規模などのデータは出ていないが、まだそこまで大きな市場にはなっていないように思う。


しかし、上記見てきたアメリカでの社会背景が日本においても当てはまるかどうかを見ていき、日本市場で缶ワインが普及していくかを考えていく。



・支出を抑える倹約志向



ここ15年の家計消費支出は上図のようなものである。さらに、今年の10月からの増税で消費支出はさらに冷え込んでいる。



一方で、ワインに対する支出は堅実に伸びてきている。


全体の消費支出は冷え込みながらも、ワインに対する消費は伸びているというこの状況はアメリカと酷似している。


ゆえに、消費支出から見る社会背景は、缶ワイン成長の素地ができているといえる。


・適度な量を楽しむ健康志向


健康志向については、これまでもたびたび触れてきた。


もっとよく見る、若者のお酒離れ』では、日本人の健康志向は絶対的なものではないが付加価値として判断基準に使われる、ということを見てきた。


この点、少量を楽しむというのは選択肢において重要な価値となりうる。


・ワイン消費の場の多様化


ワイン消費の場の多様化という点では、日本のコーヒー市場から示唆が得られる。


今日、だいぶ耳にするようになったBlue Bottleなどを指すサードウェイブという言葉。Blue Bottleが三番目(サード)なら、二番目や一番目は?


ここに、消費の場多様化のヒントがある。


日本にコーヒーが初めて入ってきた頃は、他の舶来製品同様に在留外国人向けに販売、消費されていた。しかし、次第に国内の富裕層の間でもわずかながら浸透していき、1950年代からインスタントコーヒーがされるようになっていった。


ただでさえ、新しい商品で新しい味であったコーヒーだったがインスタントの登場により、消費が簡素化されたことで、一気に消費者との心理的な距離が縮まり、コーヒーの消費量は急激に伸びていった。これがファーストウェイブである。


ファーストウェイブの中で重要なことは、下図でもわかるようにインスタントコーヒーの登場がレギュラーコーヒーの発展を促すことはあれど、阻害することはなかったという点である。



インスタントコーヒーの登場で一般家庭でもコーヒーが楽しまれるようになった一方で、カフェ・喫茶店文化は19世紀末から連綿と続いていた。


当初は文化人の社交の場にしか過ぎなかった喫茶店が、日本における喫茶店登場のおよそ1世紀後、ドトールやスターバックスというより気軽に入ることのできるカフェ文化が醸成されるに従い、一般の人々もカフェに入り、あるいはテイクアウトしてコーヒー(あるいはコーヒー系飲料)を楽しむような文化が成立していった。


これが、セカンドウェイブにあたる。


このようにして、コーヒーは一部の人々だけのものであったのが、インスタントコーヒーという形でまず各家庭におりてき、その後カフェ文化とともに今日のように街中で目にする当たり前の存在となっていった。


カフェ文化の登場は、これまでコーヒーを知らない/興味のなかった人にも親近感を抱かせ、裾野を広げたということにある。


翻って、ワインの消費の場を考えると、これまではフォーマルなレストランなどで襟を正して飲むものであったワインが、スーパーなどでも気軽に買える価格帯まで落ちてき、さらにお花見に持っていったりと、伝統的な西洋料理店でしかワインを飲まない人なんてもはやいないのではなかろうか。


さらに、缶ワインの登場はこれまでボトルワインだろ量的に重さ的に自宅に買って帰ることのなかった層が自宅で消費をしたり、ピクニック行く際に缶だけ携えて持って行ったりと様々な可能性が考えられる。


個人レベルで見れば、これまで消費してこなかった場所での消費が可能になる。


そして、消費の際にはインスタントコーヒーのように、従来の消費工程よりもずっと楽に消費することが可能となる。


なにより、そのような様々な場でもワインを(楽しめるのであれば)楽しもうという消費者層は確実に育まれてきたように感じる。



以上のように考えると日本の市場においても、缶ワイン市場が急成長しているアメリカ市場と同様の背景が確認できる。ゆえに、今後缶ワインが広まっていくための素地は整っており、缶ワインの普及の可能性は十分大きいように思う。


次回は、ではいかに缶ワインを普及させていけるかというところを見ていく。


参照サイト

"Canned Wine Comes of Age" Wine Spectator

『缶ワインにブレークの予感 高級品を手ごろに一人飲み』NIKKEI STYLE

『家計消費支出(全支出項目計)』GD Freak!

『コーヒー産業にみる消費の文化に関する省察』一橋大学 安藤 裕

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