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機能を売りにするノンアルコール






10月15日、キリンビールが、新たなノンアルコールビール、「キリン カラダ FREE」を投入した。


「お腹わまりの脂肪を減らす」というキャッチコピーで機能性表示食品である。


ことノンアルコールビールは機能性食品など味わいや世界観よりも機能性を重視する商材が非常に多い。


今回は、機能性表示食品やトクホなど健康という機能を売りにする食品の分類とその変遷、市場規模について見ていき、それを踏まえノンアルコール市場を考えていきたい。


健康食品の分類と発展

健康食品は1991年に特保制度が開始され、2001年には保健機能食品制度、栄養機能食品制度が開始され、2015年に機能性表示食品制度が開始された。


それぞれの健康食品の特徴は下記のようなものである。


『健康食品業界の動向』株式会社 三井住友銀行

ノンアルコールビールについて考えると、サッポロの「SAPPORO+」、アサヒの「アサヒヘルシースタイル」が特保に、キリンの「パーフェクトフリー」及び「キリン カラダ FREE」、サントリーの「からだを想うオールフリー」が機能性表示食品に該当する。


機能性表示食品は、特保のような許認可制度でなく、費用面でも時間面でも大幅に抑えることができるため、大きな伸びが期待された。


しかし、実際には機能性表示食品の届け出件数は、2015年度に310件、2016年度に620件、2017年度に314件と3年目に早くも前年を大きく下回る結果となっている。


これは、わざわざ臨床試験などを行い表示マークを取得しても、それが実際の売上に結びつかないという問題ゆえである。


例えば、機能性表示が最も強く作用しそうなヨーグルトにおいても、最も売れている商品は特保でも機能性表示食品でもない、食品表示法に抵触しない巧みなキャッチコピーを使った明治の「プロビオシリーズ」である。


ノンアルコールビールにおいても、売上一位のアサヒドライゼロは認証表示を取得していない。


消費者にとって、そういった認証表示よりも「強さひきだす」「プリン体と戦う」などわかりやすいキャッチコピーがあれば、それで十分なのかもしれない。これは、『日本におけるオーガニック市場』で見た、オーガニック市場が日本で伸び悩んでいる状況と少し近いところがある。


業界の狙いと消費者の思いに若干のすれ違いがあるのかもしれない。


健康食品の市場規模

そうは言っても、オーガニック市場同様に健康食品市場が伸びていることも事実である。


『健康食品業界の動向』株式会社 三井住友銀行

健康食品市場全体としては直近7年で20%近く伸長しており、これは年平均成長率に換算しても2~3%ほどになる。


『健康食品業界の動向』株式会社 三井住友銀行

今後の展望について考えてみても、特に支出額が多いのは30代未満および30代の若年層であり、長期的にみると大きな可能性を秘めていることがわかる。


機能を売るノンアルコール

認証表示の有無を考えずとも、前述したように、ノンアルコール商材には機能を売りにしたものが多い。


ノンアルコールであるということが既に一つの機能として捉えられているため、その方向性でのブランド構築というのが行われているのかもしれない。


以下はノンアルコールビールの銘柄とそのキャッチコピーである。



大手メーカーの製品を見てみても、半数以上が機能を売りにしている。


ではノンアルコール市場において、本当に機能を売りとした戦略は正しいのであろうか?

いくつか指摘できることがある。


  1. ノンアルコール市場と健康食品市場のターゲットの違い

  2. アルコールへのニーズとシーズの違い


►1.ノンアルコール市場と健康食品市場のターゲットの違い


上記に見てきたように、機能性表示食品などの機能を売りとした健康食品市場を最も求めている層は30代以下の若年層である。そして、需要ば70代、40代、50代において低いものとなっている。


その一方で、ノンアルコールビールについてのアンケート調査結果を見てみると、



ノンアルコールビールを最も飲んでいる層は50代以上であり、最も飲んでいない層は30代という結果になっている。


つまり、ノンアルコールビールのヘビーユーザーは50代以上であり、最も疎遠な層は30代以下であるのに、30代以上に最もニーズのある機能性による訴求をしているということになる。


これはニーズの掘り起こしという可能性はあるかもしれないが、ノンアルコールビール市場がまだまだ発展途上にある段階では、難しいと言わざるを得ないかもしれない。


►2.アルコールへのニーズとシーズの違い


もう一つが、アルコールというものへの立ち返りの必要性である。


ノンアルコールといえども、アルコールとうたっている以上は、飲まれる場や状況などは通常アルコールを飲む場、飲みたくなるシチュエーションであることは間違いない。


そう考えたとき、改めてアルコールの立ち位置を考え直す必要が出てくるように感じる。


アルコールに機能性をお止める人がどれほどいるだろうか?


その製品の造られた背景として、歴史や土地、文化を語り、各々の好みや製法の違いなどを語りながら、あるいは場をより楽しく過ごすために消費されるアルコールにおいては、機能というのは、よくても深酒の言い訳程度にしか語られえない。


そのようなシチュエーションや場で提供されることを想定したノンアルコールにおいて、機能を強化していくことが正しい選択なのかはわからない。


 

機能を売りにする食品の市場は、取り入れやすい機能性表示食品の制度化や若年層の需要の高まりなどを考えても、まだまだ伸びていくものと思われる。


しかしノンアルコール市場において、現状の機能を重視したアプローチ方法が功を奏するのかは、ターゲットのミスマッチなども踏まえて未知数であると言わざるを得ない。


機能だけではない、世界観などを重視したノンアルコールブランドの登場が、伸び悩むノンアルコール市場のカンフル剤となるかもしれない。


参照サイト

『キリン、ノンアルビールで「打倒アサヒ」なるか 健康志向が追い風、消費増税で駆け込みも』東洋経済ONLINE

『機能性表示食品の市場規模(2019年)から考える戦略と注目カテゴリー』WOMAN'S LABO

『健康食品業界の動向~「健康」をキーワードに成長する市場の戦略方向性』

株式会社 三井住友銀行コーポレート・アドバイザリー本部 企業調査部

『健康ビジネス論 序説~新しい観光と「ウェルネス」「ヘルスケア」「スポーツ」~』

いわき明星大学大学院人文学研究科紀要 第 15 号 2018 年

『機能性表示食品、制度発足から4年で2000億円市場に拡大 課題は認知度』食品産業新聞社

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