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ボジョレーヌーボーに学ぶ戦略パレットと創発的戦略 - 後編 -

更新日:2022年9月15日






ボジョレーヌーボーに学ぶ戦略パレットと創発的戦略 - 前編 -』では、ボジョレーヌーボーの全輸出量のおよそ半分が運ばれてくる、日本市場においてどのような変遷があったのかを見てきて、


経済状況やポリフェノールブームといった外的要因が強く影響していることを確認し、ボジョレーヌーボー市場は、ワイン産業の「適応型」事業環境という特色が色濃く表れていることを見てきた。


今回は「適応型」事業環境において、どのような戦略を取ることが好ましいのかを、ホンダのスーパーカブの事例を見ていきながら考えていきたい。


偶然から生まれたスーパーカブ

黒の革ジャンを着た荒くれものが大きなバイクを乗り回す。

1950~60年代のアメリカのバイカーのステレオタイプと言えば、確かにこのようなものだった。


そのような市場では、ハーレーダビッドソン、トライアンフのような会社が幅を利かせていた。


そのような市場にホンダは真っ向から勝負を挑もうとした。


先行の欧米企業のバイクに負けない大型バイクで市場のパイを取りに行ったが、長距離を高速で乗り回す過酷なバイク事情下では、ホンダのバイクは故障が多く苦戦が強いられた。


ホンダの社員は、この苦境を普段使いのスーパーカブに乗りながら気分転換しつつしのいでいました。


すると、次第にアメリカ人の間でこの使い勝手のよさそうな小型バイクが話題となり、大型バイクの故障件数増加も相まって、当時販売を予定していなかったこのスーパーカブの販売に乗り出し、「ホンダはアメリカのオートバイ市場を再定義した」といわれるほどの大きな成功を収めた。


当初、目論んでいた計画には、小型バイクの販売は入っておらず、実際ホンダはシアーズ、バイヤーからの提案に難色を示していた。


スーパーカブ成功の要因

スーパーカブの成功要因はなんであろうか?


大型バイクが主流の市場で小型バイクで差別化したというのは、間違ってはいないがあまり実態を説明できていない。


なぜなら、当初からそのような差別化を企図してスーパーカブを投入していったわけではないからだ。


成功要因を理解するにはまず、当時のオートバイの立ち位置を理解する必要がある。


オートバイは、第二次大戦後、オートバイは警察や軍において仕事上利用される以外は、非常に限られた人々によってのみ乗用されていたということである。


それまでの大型バイクの販売網は、各地のバイカーと繋がりのあるディーラーを通して販売していくというものであったが、ホンダはディーラーでなく、スポーツ用品の小売業者を通じて販売網を広げていくことで、既存の利用者よりも、小型軽量に魅力を感じる新規の利用者を獲得していった。


こうして図らずも、ホンダはブルーオーシャンを掘り当てることとなった。


先に述べたように、このような成り行き任せの戦略であたために、小型軽量の機能性を軸とした新規市場の開拓に成功した、などといった計画的目論見はこの事例にはそぐわない。


むしろ、成功要因として評価されるべきは下記の点にある、


  1. 臨機応変な方向転換を認めるリーダーシップ

  2. 現場の実態を尊重する企業文化

  3. 世界水準の自社リソース


現場がしっかり市場を見て、ミドル(中間管理職)が経営陣に実状を伝え、トップが柔軟に対応し、高水準のリソースを注ぎ込んだからこそ、成功したと言える。


創発的戦略の概要

上記のようなホンダのスーパーカブの事例は、創発的戦略の好例と言われている。


事業の準備段階で想定していた方向性で(マイナーチェンジはありつつも)進む戦略を意図的戦略というのに対して、


" 時間の経過とともに「出現、発現」してくるか、もしくは当初実行に移されたときの戦略とは原型をとどめないほどに変容した競争優位獲得のための戦略や打ち手のこと "


を創発的戦略と呼ぶ。


適応型事業環境と創発的戦略

このように見ていくと、適応型事業環境と創発的戦略の相性が浮かび上がってくる。


適応型事業環境は、試合の流れは変えられるもの、ゲームのルールは容易に変えがたい事業環境であった。


ルールの変更は他社との協働なども必要になってくるうえ、実際に現場にいて浮き上がってくるというより、市場全体を俯瞰/分析してはじめて出てくる場合が多いため、創発的戦略では語りがたい。


一方で試合の流れの移り変わりは、現場で観測しやすく、比較的即時的な対応が可能となる。


ボジョレーヌーボー × 適応型事業環境 × 創発的戦略

以上からボジョレーヌーボーを考察しなおすと、


2003年や2011年のような当たり年に高まった一時的な需要に、十分な供給量をもって応えられなかった、ひいてはそのような変化に対して、柔軟に動くための風通しの良い企業文化やリーダーシップの欠如があったのかもしれないと、指摘することができる。


言うまでもなく、これはこのような視座に立てば、このような指摘ができるといった思考実験的な試みに過ぎない。


しかし、スーパーカブ以前の北米のオートバイ市場のように、ワインなども嗜好品もまだまだ裾野が広がっているとは言い難い状況にある(下図参照)。



今後、市場がどのような展開を見せていくかはわからないが、まずは現場の声が拾いやすい企業体質やここぞという時のリーダーシップを養っておくのは、どんな状況でもプラスになるに違いない。


参照サイト

『戦略的意思決定プロセスの決定 ー計画型モデルと創発型モデルの統合へ向けてー』文 智彦

『ワイン/飲用者は約6割、友人や家族と飲む人が5割強』流通ニュース

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