毎年思い切りのよいキャッチコピーと軽快な味わいで日本人を楽しませてくれるボジョレーヌーボーは、日本のワイン産業黎明期から広く支持されてきた。
解禁日を持ち、イベントごととして楽しまれるボジョレーヌーボーは、全輸出量の約半分が日本に来ているとも言われ、日本においては時に熱狂的に、時に冷笑的に捉えられてきた。
昨年は、サントリー食品インターナショナルによって、オランジーナヌーボーのような、ソフトドリンクカテゴリーでも旬や解禁日を楽しめるような試みが打たれている。
改めて日本において長く親しまれてきたボジョレーヌーボーを見ていくことで、学べることがないか考えていきたい。
上記が日本へのボジョレーヌーボーの輸入量推移である。
2008年の後は「21世紀最高」のキャッチコピーがついた2011年の翌年2012年に74万ケースまで回復し、今日は40万ケース前後まで落ち込んでいる。
これまでの分析では、ボジョレーヌーボーの日本市場における成功要因は以下のように説明されている。
バブル経済:好景気に乗ったボジョレーヌーボーブーム(1989年前後)
ポリフェノールブーム:健康志向で赤ワインブーム(1998年~1999年)
グレートヴィンテージ:景気の良いキャッチコピー(2003年、2011年)
初モノ好きの国民性:世界一早く解禁日が迎えられる立地
これら要因は日本の輸入業者からすれば、自らの企業努力で引き起こしたものではないという点で、外的要因であると言うことができる。
さらに上三つの要因は、定性的なものというよりは時間とともに変化していく類のものである。
このようにして見ていくと、ボジョレーヌーボーを通じて、ワイン業界の特性の一端が見えてくる。
業界特性を考えるとき、ボストンコンサルティングが有用なフレームワークを提示してくれている。
それが、今回のタイトルにもある「戦略パレット」である。
業界の事業環境を、
予測可能性/不確実性(将来の環境をどれほど予測できるか)
改変可能性(独力あるいは他社と協働して、環境にどれほど影響を及ぼせるか)
過酷さ(自社はその環境で生き残れるか)
の三軸で考え、当該事業がどのような特性をもっているか、ひるがえってどのような戦略が有効であるかを示唆してくれる。
不確実性と改変可能性は、いわばゲームの流れとルールのようなものである。
不確実性が高いとはゲームの流れ(流行・トレンド)が読みづらい状況を意味し、改変可能性はそもそものルール(ビジネスモデル・市場原理)を変更できるかということである。
そのように考えると、五つの型は以下のように説明できる。
伝統型:ゲームのルールが大きく変わることもなく、試合の流れも読みやすい事業環境(インフラ、エネルギー産業)
適応型:ゲームのルールが大きく変わることはなく、試合の流れが速く、流れは読みづらい状況にある事業環境(小売、アパレル産業)
形成型:ゲームのルールも変わりやすく、試合の流れも速く、非常に読みづらい。新しいゲームのルールを作り上げた人が勝者となる事業環境(ソフトウェア、アプリ産業)
先見型:試合の流れは読みやすいが、ゲームのルールを変えることのできる状況にある事業環境(破壊的イノベーション;スマートフォンの登場 )
再生型:そもそも産業のリソースが足りておらず存続困難にある事業環境
ボジョレーヌーボーは、農業の成果物のワインを販売・提供していくという根本的なルールが大きく変わることはなく、年々変化する気象条件、嗜好トレンド、経済状況が大きな影響を与えるという「適応型」としてのワイン産業の特性を強く表している。
その点では、グレートヴィンテージによる需要増を見通せずに、一年遅れの2004年や2012年に供給量を上げ過ぎてしまったことは適応に失敗したといえる。
適応型の事業環境(変化の速い環境)において適応に失敗すると、束の間の需要を取り逃がしてしまうため、価格を下げて対応するほかなくなってしまう。
それによりボジョレーヌーボーのブランドイメージは、徐々に悪化していったのではないかと考えられる。
次回は、ではこのような適応型事業環境において、どのような戦略が好ましいのかを異業種での事例をふまえながら見ていきたい。
参考サイト
『日本のボジョレーヌーヴォー市場動向に関する一考察』三宅 智子
『ボージョレ・ヌーボー到着、輸入量はピークの4割も一定の需要』日経ビジネス
『最善の戦略を見極めるための戦略は何か』Harvard Business Review
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