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決算書から見る、世界の酒類メーカー|ペルノ・リカール編

10月8日
読了時間: 10分

酒類メーカーがノンアルコールをどう位置づけているのか。それを知るのに、決算書ほど正直な資料はない。


プレスリリースや広告には美しい言葉が並ぶ。一方、決算書に載るのは数字と、投資家に向けた率直な説明だ。どの事業に力を入れ、何を課題と見ているかが、そこに表れる。


今回取り上げるのはペルノ・リカール。ジェムソン、アブソルート、シーバス・リーガル、マーテルを抱えるフランスの酒類メーカーで、ディアジオと並ぶ世界最大級の蒸留酒メーカーとして知られる。


この会社の決算書には、ノンアルコール事業の売上も成長率も載っていない。それでも、ノンアルコールが資料のどこに置かれているかを見ると、この会社が節酒という変化をどう捉えているかが見えてくる。最新の通期決算である2026年6月期(2025年7月〜2026年6月)の決算資料をもとに読み解いていく。

決算書から見る、世界の酒類メーカー|ペルノ・リカール編
1. 会社の輪郭
  • 二つのアニス酒から始まった

ペルノ・リカールの名前は、二つの会社に由来する。


ペルノの創業は1805年、リカールは1932年。どちらもフランスを代表するアニス系の酒を看板とし、長く競合関係にあった。その両社が1975年に合併して生まれたのが、ペルノ・リカールである。2025年に、合併から50年を迎えた。


  • 買収で世界のブランドを集めた

合併後のペルノ・リカールは、大型の買収を重ねて世界的なブランドを手に入れていく。


1988年:アイリッシュ・ディスティラーズを買収(ジェムソン)

2001年:シーグラムの酒類事業を取得(シーバス・リーガル、ザ・グレンリベット、マーテル)

2005年:アライド・ドメックを買収(マム、バランタイン、ビーフィーター)

2008年:ヴィン&スプリットを買収(アブソルート)


アニス系の酒の会社が、ウイスキー、コニャック、ウォッカ、ジン、シャンパーニュを揃える世界企業になった。


現在は240以上のブランドを持ち、160以上の国で事業を展開し、従業員は約1万9千人を数える。


  • 絞り込む時期に入っている

ここ数年は、逆の動きが目立つ。ブランドを売る側に回っているのだ。


2025年4月:ジェイコブス・クリーク、カンポ・ヴィエホ、ブランコット・エステートなどの国際ワイン事業の売却を完了

2025年12月:インドのウイスキー「インペリアル・ブルー」の売却を完了。


インペリアル・ブルーは販売数量でインド3位のウイスキーブランドで、年間の販売量は約2240万ケース(9リットル換算)にのぼる。


このほか、マム・ナパのスパークリングワイン事業を手放した。フィンランドでは、リキュールのミントゥなどのローカルブランドと、トゥルクにある生産設備を売却した。


2023年6月期から2027年6月期に発表分まで含めた売却額は、累計で約15億ユーロ(約2780億円)にのぼる。


  • 日本での展開

日本法人のペルノ・リカール・ジャパンは1990年に設立され、日本の従業員は約200名。


同社は日本を「最も戦略的でダイナミックな市場の一つ」と位置づけている。2020年には、京都のジン「季の美」に大規模な投資を行った。


2. 会社の規模

2026年6月期の売上高は94億400万ユーロ(1ユーロ=185円換算で約1兆7400億円)で、前年から14.2%減った。


ただし、この数字は割り引いて読む必要がある。


減少分の約4分の3は、ワイン事業などの売却と、米ドルやインド・ルピーに対するユーロ高によるものだ。為替や事業の売却・買収の影響を除いた「オーガニック」の成長率で見ると、減少は3.9%にとどまる。


利益も同じ傾向にある。同社独自の利益指標で、一時的な費用や収益を除いた営業段階の利益にあたるPRO(経常営業利益)は、24億2300万ユーロ(約4480億円)。


オーガニックで5.2%の減少だった。営業利益率は25.8%と、高い水準を保っている。


最終的な純利益は12億300万ユーロ(約2230億円)で、26%減った。主な理由はリストラ費用による一時的な費用の増加で、これを除いた経常ベースの純利益は19%減だった。


財務面では、純有利子負債がEBITDAの3.7倍あり、2029年6月期までに3倍未満に下げることを目標に掲げている。配当は1株4.70ユーロで、前年から据え置いた。

3. 部門ごとの状況

ペルノ・リカールは、地域別に業績を開示している。

ペルノ・リカール2026年6月期の地域別売上構成比を示すドーナツグラフ。アジア・その他42%、欧州31%、アメリカ大陸27%が表示。
  • 二つの市場が全体を押し下げた

減少の中心は、二つの市場にある。


米国は-14%。グループ売上の17%を占める最大の市場だ。会社は、景気の減速と消費者心理の冷え込みによる蒸留酒市場の鈍化に加え、卸・小売の在庫調整を理由に挙げている。


中国は-19%。グループ売上に占める比率は7%。会社は、厳しいマクロ経済と消費者心理の弱さに加え、「規制措置」が需要に影響したと説明している。


  • 米国と中国を除けば、全体ではプラス

米国と中国を除くと、景色が変わる。この二つを除いたグループ全体のオーガニック成長率は+0.5%だった。すべての市場が伸びたわけではないが、全体としてはプラスを保っている。


伸びが目立つのは、インド(+7%、インペリアル・ブルーを除けば+9%)とトルコ(+26%)だ。日本も、シャンパーニュのペリエ ジュエの伸びに支えられてシェアを伸ばしたと記されている。


ブランド別にも同じ構図が見える。


ジェムソン:世界全体では一桁台前半の減少。米国を除けば一桁台後半の成長

マーテル:世界全体では大幅な減少。中国を除けば一桁台前半の成長

要ブランドをまとめた「国際的な戦略ブランド」全体:-4%。米国と中国を除くと+1%


  • RTDは二桁成長

伸びている分野もある。RTD(缶やボトル入りの、そのまま飲めるお酒)は+12%。


カナダ、オーストラリア、西欧で大きく伸びた。売上に占める比率は、2021年6月期の約0.5%から、2026年6月期には約2.5%まで上がっている。

4. 注力している分野
  • 10億ユーロの効率化

ペルノ・リカールは、10億ユーロ(約1850億円)規模の効率化プログラムを進めている。


2026年6月期にその半分を達成し、完了の時期を1年前倒しして2028年6月期とした。管理部門などの固定費は8.0%削減した(前年は4%削減)。


  • ブランドの入れ替え

前述のとおり、ワイン事業やインペリアル・ブルーを売却して、ブランドの絞り込みを進めている。


決算資料はこれを「積極的なポートフォリオ管理」と呼ぶ。インペリアル・ブルーの売却は「利益率と成長率をすぐに押し上げる」と説明されている。


  • 広告宣伝への投資は維持

コストを削る一方で、広告宣伝費は売上高の約16%という水準を保つ方針だ。2026年6月期の実績は15%だった。


5. 直面している課題
  • 米国と中国は、まだ底を打っていない

2027年6月期について、会社はオーガニックの売上を「ほぼ横ばい」と見込んでいる。ただし米国と中国は、流通在庫の調整の影響で、引き続き減少を予想している。


中期(2027〜2029年6月期)の成長率目標は、「+3〜6%のレンジの下限付近」とされた。


  • 財務の立て直し

EBITDAの3.7倍という純有利子負債の水準は、目標の3倍未満までまだ距離がある。


ブランドの売却と効率化によってキャッシュを確保することが、当面の課題になる。


  • 消費者の変化

決算説明資料は、消費者の動向として「健康意識の高まりと、広く見られる蒸留酒の節酒の申告」を挙げている。同時に、「Z世代は引き続き蒸留酒に関わっている」とも記している。


6. 決算書から見えてくる、ノンアルコールへの取り組み

さて、本題である。


  • 事業の数字は開示されていない

ペルノ・リカールの決算資料には、ノンアルコール事業の売上高も、成長率も、販売数量も、グループ売上に占める比率も載っていない。決算リリースの本文にも、ノンアルコールへの言及はない。


対照的なのがRTDだ。RTDについては、売上に占める比率が2021年6月期の約0.5%から約2.5%に上がったことまで具体的に示されている。同じ「新しい飲み方」に関わる領域でも、開示の仕方がはっきり違う。


公式サイトは、自社のノンアルコール商品群を "rapidly growing"(急速に成長している)と表現している。ただし、その裏付けとなる数字は示していない。


少なくとも現時点では、ノンアルコールは投資家向けに独立した事業KPIとして開示する位置には置かれていない。


  • ノンアルコールが置かれた二つの場所

では、決算資料のどこにノンアルコールが出てくるのか。二か所ある。


一つは、イノベーションの項目だ。"Expanding into low/No with Lillet 0.0% and Beefeater 0.0%" として、ノンアルコールへの展開が新商品の取り組みの一つに挙げられている。


もう一つは、消費者動向を扱うパートの "Mindful moderation"(意識的な節酒)というスライドだ。


  • 節酒への答えは、一つではない

このスライドの構成が興味深い。節酒する消費者への対応として、三つの方向が並べられている。


一つ目は、プレミアム化。ここには次の一文がある。


"Almost 1 in 5 of those claiming to drink less are trading up ("less but better")"

飲む量を減らすと答えた人の、ほぼ5人に1人が、より上のグレードの商品に移っている。


量は減らすが、質は上げる。いわゆる "less but better" だ。


二つ目は、アペリティフ。より軽い飲用の場面を担うものとして位置づけられている。


三つ目が、ノンアルコールである。


ペルノ・リカールにとって、節酒イコールノンアルコールではない。


量を減らして良いものを飲む人、軽い場面に移る人、飲まない選択をする人。その三つの動きに、それぞれ別の答えを用意している。


なお、RTDはこのスライドには入っていない。"Convenience"(手軽さ)という別のスライドに置かれ、Z世代がRTDの飲み手に多いことと結びつけて説明されている。


  • 40年以上前から続いている

ペルノ・リカールのノンアルコールへの取り組みは、最近始まったものではない。


1982年、同社はアニス風味のノンアルコール飲料「パシフィック」を発売した。2024年のBeefeater 0.0%の発表でも、同社は自らを「1982年のパシフィック発売以来の、このセグメントのパイオニア」と位置づけている。アニス系の酒から始まった会社が、アニス風味のノンアルコールを40年以上前に出していたことになる。


  • やり方も一つではない

現在、公式サイトのブランド一覧には、ノンアルコールとして次の商品が並んでいる。


Seagram's 0.0%、Beefeater 0.0%、Cinzano Spritz 0%、Suze Tonic 0%、Ramazzotti Arancia 0.0%、Almave Ambar 0%、Almave Blanco 0%、Lillet Blanc 0%、Pacific 0%


その中身を見ると、アプローチが二つに分かれる。


既存ブランドのノンアルコール: Beefeater 0.0%は、2024年1月にスペインで発売された、ビーフィーターにとって初めてのアルコールゼロの商品だ。ビーフィーターの伝統的なレシピのエッセンスを、天然由来の香料だけでベースに加えて作られている。Lillet Blanc 0%は、2026年4月にドイツとオーストリアで発売された。ボルドーのワインベースのアペリティフであるリレを、脱アルコールしたフランスワインとフルーツのインフュージョンで再現している。商品名は「0%」だが、表示上のアルコール度数は0.5%未満である。


外部ブランドへの出資: Ceder'sは、南アフリカのセダーバーグ山脈の植物を使った、ボタニカル系のノンアルコール・スピリッツだ。2017年に創業者2人が立ち上げたブランドで、ペルノ・リカールは2018年に英国での販売を担い、2021年1月に過半数の株式を取得して傘下に入れた。2024年8月には、F1ドライバーのルイス・ハミルトンらが立ち上げたノンアルコールのブルーアガベ・スピリッツ「Almave」に、少数株主として出資した。どちらも最初からノンアルコールとして設計されたブランドで、ペルノ・リカールは関わり方の深さを変えながら取り込んでいる。


製造の拠点も整えている。2023年秋、フランス南部のティュイールで、ノンアルコールのスピリッツの製造と研究開発を担う施設が稼働した。また責任ある飲酒の取り組みとして、2027年までに主要市場でノンアルコールの選択肢を用意することを掲げている。


決算書が語ったこと

2026年6月期のペルノ・リカールは、報告ベースで売上を14.2%落とした。


ただしその約4分の3は、ワイン事業などの売却と為替によるもので、実力ベースの減少は3.9%だった。


落ち込みの中心は、米国と中国という二つの大市場だ。この二つを除けば、グループ全体ではプラスを保っている。そしていま、ブランドを売り、コストを削り、負債を減らす局面にある。拡大の時代から、選び直す時代へ。その移り変わりが数字に表れている。


その中で、ノンアルコールはどこにいるのか。


決算資料に、ノンアルコール事業の数字はない。RTDの構成比は示しているが、ノンアルコールについては示していない。


一方で、資料の構成ははっきりしている。ペルノ・リカールは節酒を、単に「酒が売れなくなること」としては扱っていない。


量を減らして良いものを選ぶ人にはプレミアムブランドを、軽い場面にはアペリティフを、飲まない場面にはノンアルコールを。三つの方向を並べて、それぞれに答えを用意している。


ノンアルコールの中でも、やり方は一つではない。既存ブランドのノンアルコール版、専用ブランドの育成、外部ブランドへの出資。そして1982年から続くパシフィック。


決算資料から読み取れるのは、この会社が向き合っているのがアルコールの量ではなく、飲む場面そのものだということだ。


ノンアルコールは、その場面を取りこぼさないための選択肢の一つとして、節酒とイノベーションという二つの文脈に置かれている。売上の数字はまだ語られていない。


しかし40年以上の系譜と、いくつものアプローチを重ねている事実を見る限り、このカテゴリーを一時的な防衛策として扱っていないことは確かだ。

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