決算書から見る、世界の酒類メーカー|サントリー編
酒類メーカーがノンアルコールをどう位置づけているのか。それを知るのに、決算書ほど正直な資料はない。
プレスリリースや広告では美しい言葉が並ぶが、決算書には数字と、投資家に向けた率直な説明が載る。どの事業に力を入れ、何を課題と見ているかが、そこに表れる。
今回取り上げるのは、サントリーホールディングス。日本を代表する酒類・飲料メーカーであり、ノンアルコールについて独自かつ明確な定義を打ち出している会社でもある。最新の通期決算である2025年12月期の決算をもとに読み解いていく。

1. 会社の輪郭
創業から現在まで
サントリーの歴史は1899年、鳥井信治郎が大阪で葡萄酒の製造販売を始めたことに遡る。創業から126年を数えた2025年、この会社は大きな転換点を迎えることになる。
サントリーを語るとき、単なる製造業として捉えると本質を見誤る。この会社は、飲み方そのものを提案し、カテゴリーを作ることで市場を広げてきた。
ハイボールがその典型だろう。ウイスキー消費が長期的に落ち込むなか、2000年代後半から炭酸で割る飲み方を大々的に提案し、食中酒としての需要を掘り起こした。
ジンの「翠」も同じ系譜にある。ジンをカクテルだけの酒ではなく、ソーダで割って日常の食事と楽しむ「食中酒」として提案し、国内のジン市場を広げてきた。
ジャパニーズウイスキーについては、2021年に業界団体が定めた表示基準が2024年3月末の移行期間終了をもって本格適用され、世界市場での位置づけが明確になった。同社の山崎や響は、国際的なコンペティションで最高賞を重ねている。
製品を売る前に、その飲み物が何であるかを定義し、どう飲むかを提案する。この手法が、この会社の歴史を貫いている。
ノンアルコールについて言えば、酒類代替としての本格参入は2002年11月の「ファインブリュー」に遡る。当時はアルコール度数0.5%未満だった。その後、市場の拡大、健康志向の高まり、飲酒運転の罰則強化といった環境変化を受け、2010年8月にアルコールゼロ・カロリーゼロ・糖質ゼロを実現した「オールフリー」を発売している。
何を売っている会社か
事業は三つのセグメントに分かれる。
酒類は、ウイスキー(山崎、響、白州、角瓶、ジムビーム、メーカーズマーク)、スピリッツ(ROKU〈六〉、翠、サイプスミス)、ビール(ザ・プレミアム・モルツ、サントリー生ビール、金麦)、RTD(-196、オンザロックス)、ワイン。
飲料・食品は、サントリー天然水、BOSS、伊右衛門、オランジーナ、ルコゼード、リベナなど。グループ最大のセグメントである。
その他には健康食品事業が含まれる。セサミンEX、ロコモアなど。
80カ国以上で事業を展開し、従業員は4万1628人。
株式は非上場
押さえておきたいのは、サントリーホールディングスが株式非上場だということだ。上場しているのは傘下のサントリー食品インターナショナルのみである。
ただし有価証券報告書は提出しており、財務情報は一定程度公開されている。上場企業とはIRの頻度や情報の出し方が異なる、という理解が正確だろう。
2. 会社の規模
2025年12月期の決算を見ていく。
売上収益は3兆4325億円で、前年比0.4%増。ほぼ横ばいである。
一方、営業利益は2212億円で32.8%減。大幅な減益となった。非経常的な要因を除いた調整後営業利益は2843億円で10.4%減。親会社の所有者に帰属する当期利益は866億円で、50.8%減と半減している。
営業利益の落ち込みが際立つのは、一時的な損失が重なったためだ。
最大の要因が、米国のバーボンやリキュールに関する一部商標権について計上した424億円の減損損失である。対象ブランド名は開示されていないが、同社はジムビームなどの主要ブランドではないと説明している。営業減益は5年ぶりとなる。
加えて、中国でワインの輸入・販売を手がけていた子会社を売却し、その売却損を計上した。
決算説明の冒頭で、鳥井信宏社長はこう述べている。
「2025年は、世界の各市場における消費動向が冷え込み、当社の多くのエリア・事業にとって厳しい経営環境となりました」。
2026年の予想は、売上収益3兆5800億円(4.3%増)、営業利益2800億円(26.6%増)。調整後営業利益は2920億円(2.7%増)を見込む。
3. 部門ごとの状況
セグメント | 売上収益(酒税込み) | 前年比 | 営業利益 | 前年比 |
飲料・食品 | 1兆7,220億円 | +2.0% | 1,746億円 | -5.4% |
酒類 | 1兆3,870億円 | -0.4% | 1,031億円 | -42.9% |
その他 | 3,234億円 | -3.8% | 205億円 | -38.9% |
※セグメント利益の合計と連結営業利益2,212億円との差額は、各セグメントに配賦されない全社費用等による。
飲料・食品:グループ最大のセグメントで、増収を確保した。英国を中心とする欧州が牽引し、ルコゼードやリベナが好調だった。減益の要因はアジアにある。ベトナムでは水以外の飲料の消費が低迷し、ローカル企業の参入で競争が激化した。タイでは雨期が例年より早く到来して気温が下がり、主力の炭酸飲料市場が落ち込んだ。事業環境の急速な変化への対応が遅れたと、同社は説明している。
酒類:売上が横ばいながら営業利益が42.9%減と大きく落ち込んだ。前述の商標権減損の影響が、このセグメントに計上されている。事業別に見ると、明暗が分かれる。ウイスキーは山崎、響、角瓶、TOKI、インド向けのオークスミスが販売数量を伸ばした。ジンはROKU〈六〉が好調で、大阪工場に設備投資を行っている。RTDは-196とオンザロックスが伸長し、特に国内の-196無糖シリーズは前年比36%増と大きく伸びた。
ビールでは、サントリー生ビールが4%増、パーフェクトサントリービールが18%増。業務用の瓶・樽は12月末時点で約2万8000店の飲食店で扱われている。一方、海外ではインフレが進む米国を中心に蒸留酒が苦戦した。
その他:健康食品事業が中心で、ロコモアやVARONが好調だったものの、中国のワイン輸入販売会社の売却損により減益となった。
4. 注力している分野と、新体制
プレミアムブランドの強化
決算説明で紙幅が割かれているのが、ブランドの評価だ。
山崎18年が「ISC 2025」で全部門最高賞である「シュプリーム チャンピオン スピリット」を初受賞。山崎ブランドは3年連続で頂点に立ち、同コンペティション史上初の快挙となった。角瓶もジャパニーズウイスキー部門で2年連続のゴールドを受賞している。
ROKU〈六〉はジン部門で最高賞トロフィーを受賞。サントリー大阪工場は「インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション2025」で、スピリッツ部門の「リキュール・プロデューサー・トロフィー」を日本の工場として初めて受賞した。
RTDの拡大
RTDは成長領域として位置づけられている。最大市場である米国で-196の全米展開を進め、新フレーバーも投入した。
国内では4月に「THE PEEL〈レモン〉」を、7月に「-196」シリーズの新商品を発売するなど、新たな需要創造に取り組んでいる。
2026年の新体制
決算発表では、経営体制の大きな変更も示された。
鳥井信宏氏は、これまでサントリー株式会社の社長を兼任していたが、2026年からはホールディングスの社長としてグループ全体の経営に専念する。
国内酒類事業は新たに社長に就任した西田氏が率い、2030年に売上収益1兆円、国内で圧倒的なNo.1の地位を目指す。海外酒類事業はサントリーグローバルスピリッツのグレッグ・ヒューズCEOの下で、RTDと新興市場の開拓を強化する。食品事業は4月から社名をサントリービバレッジ&フードへ改称する。
5. 直面している課題
米国市場の蒸留酒
最大の課題は、米国のスピリッツ事業である。インフレの進行と消費の減速により、バーボンを中心とする蒸留酒が苦戦した。424億円の減損は、この状況を反映したものだ。
アジアの飲料事業
ベトナムとタイでの販売数量減が、飲料・食品セグメントの減益要因となった。競争激化と天候という、性質の異なる二つの要因が重なっている。
消費環境の全般的な冷え込み
決算説明が繰り返し述べるのは、世界的な消費の冷え込みである。日本も例外ではなく、歴史的な円安と物価の高騰に見舞われたと記されている。
6. 決算書から見えてくる、ノンアルコールへの取り組み
さて、本題である。
「新たな酒類文化にする」という宣言
2025年2月、サントリーはノンアルコール飲料の戦略説明会を開いた。そこで鳥井社長は、こう語っている。
「サントリーは創業以来、ワイン、ウイスキー、ビール、ジンと酒類文化を創造してきた」。そのうえで、「ノンアルコール飲料を新たな酒類文化にする」と宣言した。「酒類文化の伝承にノンアルは欠かせない」とも述べている。
ノンアルコール飲料を「アルコール0.00%のお酒」と位置づける。代替品ではなく、酒類文化の一部として捉える。この定義は、業界の中でも際立って明確だ。
そして、その言葉に組織と投資が伴った。
具体的な数字は、公表されていた
2025年1月、同社はノンアルコール飲料を専門に扱う「ノンアル部」を新設した。それまでビール本部、ワイン本部、スピリッツ本部に分散していた機能を一本化し、サントリー生ビールの開発責任者を務めた福本匡志氏が部長に就任した。
2025年の活動方針として公表された数字は、具体的である。
マーケティング費用として、前年比約1.3倍にあたる約50億円を投資する。市場全体の2025年販売数量が前年比103%と推定される中、自社は110%を目指す。大阪・関西万博などのイベントや街頭で、延べ100万人規模のサンプリングを行う。
市場の展望も示された。ノンアル部長の福本氏によれば、ノンアルコール飲料は酒類飲料市場の1%程度にとどまる。そこで2030年には市場規模を最低1400億円(2024年比1.3倍)以上に、2050年までには8000億円規模へ拡大させることを視野に入れているという。
さらにサントリーは、日本のノンアルコール飲料市場の推計値を毎年公表している。自ら市場の定義を示し、その規模を継続的に推計・発信している会社でもある。
ZEROPPAという新しい打ち手
2025年には、業務用市場への本格的な一手も打たれた。
飲食店向けの「ベースのノンアル」として開発された「ZEROPPA」である。カクテルのベースとして使うノンアルコール製品で、7月に先行発売し、9月から全国の飲食店向けに展開した。
決算説明によれば、年末時点で約5000店の飲食店で取り扱いが確定している。
家庭用ではなく、飲食店の現場でノンアルコールをどう提供するかという課題に踏み込んだ製品である。
そして、年度実績の数字がない
ここで、決算説明の書かれ方に目を向けたい。
他のカテゴリーには、販売数量の伸び率が明記されている。サントリー生ビールは4%増、パーフェクトサントリービールは18%増、-196無糖シリーズは36%増。具体的な実績が並ぶ。
ところがノンアルコールについては、年度の販売数量も売上成長率も記載がない。示されているのは「約5000店で取り扱い確定」という流通の数字だけである。
つまりこういうことになる。投資額は50億円と公表される。目標は前年比110%と明示される。しかし、その結果がどうだったかは、決算資料からは分からない。
海外についても触れておきたい。オールフリーは現在も米国で販売されており、グループのグローバルブランドサイトにもノンアルコールのカテゴリーが存在する。事業がないわけではない。
ただし2025年の決算説明で具体的に語られたノンアルコールの施策は、ノンアル部の新設、ZEROPPA、そして適正飲酒を伝える「ドリンク スマイル」セミナーと、いずれも国内のものである。2026年の海外酒類事業の重点として示されたのは、プレミアムスピリッツ、RTD、新興市場の開拓であり、ノンアルコールは独立した戦略として語られていない。
決算書が語ったこと
2025年のサントリーは、厳しい一年だった。米国の蒸留酒が苦戦し、424億円の減損を計上し、営業利益は5年ぶりに減少した。アジアの飲料事業も競争激化と天候に苦しんだ。2026年は新体制で立て直しを図る。
その中で、ノンアルコールはどこにいるのか。
ここまで見てきて浮かび上がるのは、ひとつの対比である。
投資と行動は、極めて具体的だ。専門部署を新設し、約50億円を投じ、前年比110%という目標を掲げ、100万人にサンプリングし、業務用の新製品を5000店に届けた。社長自らが「新たな酒類文化にする」と宣言している。
一方で、その結果は決算書に現れない。年度の販売数量も、売上高も、成長率も、酒類セグメント内での構成比も、利益への貢献も、開示されていない。
他社と比べると、この違いは鮮明になる。ハイネケンは低・ノンアルコールの数量成長率を開示する。AB InBevはノンアルコールビールの売上成長率を四半期ごとに示す。カールスバーグはアルコールフリー飲料がビール数量の何%を占めるかを説明する。
サントリーは、50億円という投資額を公表する。だが、それが何を生んだかという事業KPIは、投資家向けの資料に載せていない。
これは「まだ小さいから語れない」という話とは少し違うだろう。むしろ、ノンアルコールを明確に戦略投資の対象としながら、独立した事業KPIとして開示する段階には置いていない、と読むほうが正確に思える。
もっとも、この会社の歴史を振り返れば、その姿勢にも理由があるのかもしれない。ハイボールという飲み方を提案してウイスキー市場を作り直し、ジンソーダという食中酒のカテゴリーを国内に根づかせた。いずれも、数字が先にあったのではなく、定義と提案が先にあった。
「アルコール0.00%のお酒」という言葉も、同じ場所から出てきている。
2030年、国内酒類で売上1兆円。その中でノンアルコールがどれだけを占めるのか。50億円の投資と「0.00%のお酒」という言葉が、いつ売上・構成比・利益という数字になって決算書に現れるのか。サントリー編で次に見るべき数字は、そこだ。




