ノンアルコール飲料の価格は、どう決まるのか——製法と規模から読み解く
ノンアルコールの商品を眺めていると、価格の幅の広さに気づく。数百円で買えるものもあれば、数千円するものもある。
同じカテゴリーの中で、なぜこれほどの差が生まれるのか。
品質の優劣という単純な話ではない。作り方と規模の違いが、そのまま価格の違いになっている。何がコストを決めているのかを、順に分解してみたい。

製法によって、コスト構造がまったく違う
ノンアルコール飲料の作り方は、大きく三つの系統に分けられる。そしてこの三つは、コストの成り立ちが根本的に異なる。
インフュージョン製法——素材と手間がコストになる
ボタニカルやスパイスを水やビネガーに漬け込む。あるいは蒸留して香りを取り出す。素材から風味を引き出して組み立てていく方法である。
この製法でコストを決めるのは、素材と手間だ。
十種類前後のボタニカルを使う製品であれば、それぞれを調達しなければならない。産地も形態もばらばらで、適した抽出方法も素材ごとに違う。ジュニパーベリーとカルダモンとレモンピールでは、香りの出し方が変わる。希少な素材を使えば、その分がそのまま原価に乗る。
抽出には時間がかかる。漬け込みなら数日から数週間、蒸留するなら設備と燃料が要る。
特徴的なのは、規模と費用の関係だ。設備投資は比較的小さく始められる。小型の蒸留器とタンクがあれば、生産は可能である。だがその一方で、素材の調達も抽出の工程も量に比例して増える部分が大きい。規模を拡大しても、単位あたりのコストが劇的に下がりにくい構造を持っている。
脱アルコール製法——設備が前提を決める
一度アルコール飲料を造り、そこからアルコールを除く方法である。
この製法を採るには、まず酒を造る設備が要る。ビールから脱アルコールビールを作るならブリュワリーが、ワインからならワイナリーが必要だ。そのうえで、脱アルコール装置を導入することになる。
装置の規模感を見ると、この製法が何を前提としているかが分かる。
世界的な設備メーカーであるGEAの熱脱アルコール装置は、送り速度10hl/h〜50hl/hの構成が標準とされる。1時間あたり1000リットルから5000リットル。350ml換算にすると、1時間で約2857本から1万4285本を処理する計算になる。それより速い場合は、機械的蒸気再圧縮を用いた別方式のプラントが設計される。
装置を導入する以上、それを動かすだけの生産量が前提になる。数千本単位の生産のために、この規模の設備を持つことは現実的ではない。
ただし、この構図は変わりつつある。近年は膜分離方式のモジュール型装置が登場しており、設備メーカーは「大規模な設備投資は必要ない」として小規模醸造所への導入を訴求している。参入の敷居は、以前より下がりつつある。
そして、この製法にはもう一つ重要な特徴がある。最終的な品質を左右するのは、元の酒の質だ。
出発点が違うとゴールも変わる。脱アルコールの工程でもコストはかかるが、それ以上に原料となる酒の原価が価格を決める。この製法における価格差の多くは、実は酒そのものの価格差である。
発酵制御製法——設備は軽く、技術は重い
三つ目が、そもそもアルコールをほとんど作らせない方法である。
いくつかのアプローチがある。
原料液の濃度を下げてアルコールが上がらないようにする。マルトースやマルトトリオースといった糖を発酵できない特殊な酵母を使う。仕込みの温度を調整して、発酵しにくい糖を作る。いずれも、発酵そのものを管理する考え方だ。
コスト構造の特徴は、脱アルコール装置が要らないことにある。既存の醸造設備で対応できるため、設備投資の負担は相対的に軽い。
だが、技術的な難度は高い。
狙った度数に調整することが、まず難しい。特殊な酵母を使っても、レシピや条件によってはアルコールが1%台まで生成されることがある。発酵を途中で止める方法にしても、止めるタイミングを誤れば度数が狙いから外れる。
味の設計も容易ではない。原料液を薄くする方法について、ある業界向け資料は「そのままではやはり水臭く、一般に販売する勇気はなかなか持てないのが実情」と率直に記している。発酵が不完全であれば、原料由来の風味が残りやすいという課題もある。
こうした難しさに対応するには、酵母の選定と管理、発酵条件の最適化といった研究開発の蓄積が要る。大手メーカーが千株を超える酵母を維持管理しているのも、そのためだ。
つまりこの製法は、設備は軽いが、技術が高くつく。試行錯誤の回数と、その過程で生じる損失が、コストに反映される。
ロットが変えるもの
製法とは別に、価格を大きく左右するのが生産量である。
数十万ケース単位で作るのと、数千本単位で作るのとでは、1本あたりに乗るコストが変わる。
設備の稼働率がまず違う。同じ設備を持っていても、フル稼働させるのと年に数回動かすのとでは、1本あたりの償却負担がまったく異なる。
包材の調達単位も変わる。瓶もラベルもキャップも、まとめて発注するほど単価は下がる。原料の仕入れ、輸送の効率、保管のコスト。どの段階でも、量が多いほど単位あたりの負担は軽くなる。
ここで効いてくるのが、製法ごとの固定費の大きさだ。
インフュージョン製法は設備投資が比較的小さいため、少量でも成立しやすい。固定費の回収圧力が弱い分、小さく始められる。
脱アルコール製法は装置という大きな固定費を抱えるため、稼働率の影響を強く受ける。設備を遊ばせておけば、その負担は製品価格に跳ね返る。逆に言えば、量を作れる体制があれば有利に働く。
発酵制御製法は、設備は軽いが技術開発への投資が先行する。その費用をどう回収するかが、価格に影響する。
価格が何を含んでいるかを知る
ノンアルコール飲料の価格差は、品質の優劣を直接示すものではない。
量産品には量産品の合理性がある。大きな設備を効率よく回し、単位コストを下げ、安定した品質のものを広く届ける。多くの人が日常的に手に取れる価格で提供することには、それ自体の価値がある。
少量生産には少量生産の必然性がある。手間のかかる素材を選び、工程を増やせば、その分は価格に表れる。規模の経済が働かない以上、価格を下げることには限界がある。
どちらが優れているという話ではない。どういう場面で、誰に、何を提供したいのか。それによって選ぶべきものが変わる。
価格を見るときに大切なのは、高いか安いかを判断することではなく、その数字が何を含んでいるのかを知ることだろう。製法が違えば、コストの成り立ちが違う。規模が違えば、1本に乗る負担が違う。その構造を理解しておけば、仕入れの判断にも、お客様への説明にも、根拠が生まれる。




