ノンアルコール ペアリングの基本——料理に合わせる考え方のすべて
- alt-alc,ltd.

- 8月3日
- 読了時間: 7分
「ノンアルコールを料理に合わせたいけれど、何を基準に選べばいいのか分からない」。
飲食店の現場でも、家庭の食卓でも、そんな声をよく聞く。
ワインなら産地や品種の知識が積み上がっているのに、ノンアルコールとなると、とたんに手がかりがなくなる。
だが、ノンアルコールのペアリングは、特別な才能や膨大な知識がなくても組み立てられる。いくつかの原則と、飲み物の成り立ちへの理解があれば、大きく外すことはない。
この記事では、料理にノンアルコールを合わせるための考え方を、基本から順に整理する。

ペアリングは、どちらから考えてもいい
まず押さえておきたいのは、ペアリングには二つの入り口があるということだ。
ひとつは、ドリンクを起点に考える方向。「この一杯に、どんな料理が合うか」と発想する。もうひとつは、料理を起点に考える方向。「この皿に、どんな一杯が合うか」と発想する。
どちらが正しいというものではなく、状況によって使い分ける。
決まったドリンクの魅力を最大化したいならドリンク起点、料理が主役ならば料理起点で考えればいい。どちらの方向でも、次に述べる原則は同じように働く。
なお、ドリンクの原材料表から使われている素材を読み取り、それを手がかりに料理を考えるという実践的な方法については、別記事「ノンアルコールペアリングのいろは」で詳しく扱っている。あわせて参照してほしい。
合わせ方の原則——まず「ボディ」、そのうえで「同調」と「補完」
ペアリングを考えるとき、味や香りの相性から入りたくなるが、その前に確かめるべきことがある。
最初はボディを大切に
飲み物と料理の「重さ」が釣り合っているか、という点だ。
どれほど香りの方向性が合っていても、重厚な肉料理に軽く薄い飲み物を合わせれば、飲み物は料理に押し流されて存在を失う。
逆に、繊細な前菜に濃厚で厚みのある飲み物を合わせれば、料理のほうが覆い隠される。
テクスチャの釣り合いが取れていない組み合わせでは、そもそも同調も補完も働きようがない。ボディの一致は、ペアリングの土台にあたる。
そしてここに、ノンアルコールならではの難しさがある。
飲み物の厚みや余韻を支えていたのは、多くの場合アルコールそのものだった。アルコールは液体に粘性を与え、口当たりに厚みを生み、味や香りの余韻を長く引く。
これが抜けると、飲み物は軽く、短くなりやすい。つまりノンアルコールは、構造的にボディを作りにくい。重い料理と釣り合わせるのが難しいのは、そのためだ。
だからこそ、重厚な料理に合わせるときは、意識してボディのある一杯を選ぶ必要がある。
とろみや果肉のある素材、タンニンによる収れん感、うま味やコクを持つ素材——これらでボディを補った飲み物なら、重い料理とも渡り合える。逆に、軽い一杯しか用意できない場面では、無理に重い料理に合わせず、料理側の選択を軽やかなものに寄せるという判断もある。(ボディをどう作るかは、別記事「ノンアルコールで"飲みごたえ"をどう作るか」で詳しく扱っている。)
同調と補完
ボディの釣り合いを確かめたうえで、味の相性を考える。
ここで働くのが、二つの原則だ。
ひとつは、同調。似た味や香りを重ねることで、一体感を生む。
柑橘を使ったドリンクに、柑橘を効かせた料理。ハーブの香るドリンクに、同じハーブを使った皿。共通の要素が橋渡しとなり、両者が自然につながる。分かりやすく、失敗の少ない考え方だ。
もうひとつは、補完。料理に足りない要素を飲み物が補い、強すぎる要素を和らげる。
脂の多い料理には、酸のあるドリンクを。酸が脂を切り、口の中をさっぱりとさせ、次の一口を軽くする。
甘みの強い料理やデザートには、苦味のあるドリンクを。苦味が甘さを引き締め、くどさを抑える。互いの過不足を補い合うことで、全体の均衡が生まれる。
ボディで土台をそろえ、同調か補完で味をつなぐ。この順序で考えると、ペアリングは大きく外れない。
製法を知ると、合わせ方の勘所が変わる
ここからが、ノンアルコール飲料ならではの重要な点だ。
ノンアルコール飲料は、その作られ方によって味の成り立ちが大きく異なり、ペアリングの考え方も変わってくる。主な製法を三つに分けて見てみよう。
インフュージョン製法
果汁やビネガーをベースに、ハーブやスパイスなどのボタニカルを加えて作るタイプ。
味わいの中心を担うのはボタニカルだ。原材料表を見れば使われている素材が分かるので、そこから影響の大きいボタニカルを読み取り、同じ素材を使った料理と同調させると、橋渡しがしやすい。
オルタナティブ系のノンアルコールドリンクの多くが、この考え方で料理と合わせられる。
脱アルコール製法
ビールやワインを一度醸造してから、アルコールだけを取り除くタイプ。
味の主役は、麦芽やホップ、ぶどうの発酵に由来する風味だ。そのため、元になったビールやワインのペアリングの発想を、ある程度そのまま応用できる。
ノンアルコールの赤ワインなら赤身肉に、ノンアルコールビールなら揚げ物に、という具合だ。
ただし、アルコールが抜けた分ボディや余韻が軽くなりやすく、アルコールと一緒に香りや味わいの成分も一緒に抜けてしまうため、比較的シンプルな味わいになりやすいのが特長。その点を考慮したペアリングが必要になる。
発酵製法
コンブチャやジンジャービアのように、発酵によって作られるタイプ。
ジンジャービアは本来、生姜と糖分を発酵させて作られる飲み物で、市販品には発酵を経ないものもあるが、伝統的な製法のものは発酵由来の複雑さを持つ。
発酵製法に共通する持ち味は、酸味と、発酵がもたらすうま味や奥行きだ。この酸とうま味は、料理の脂やコクと補完の関係を作りやすく、幅広い料理に寄り添う。
同じ「ノンアルコール」でも、製法が違えば味の芯が違う。どう作られた一杯なのかを知ることが、外さないペアリングの前提になる。
コースの流れで考える
一皿ごとのペアリングに加えて、食事全体の流れの中で飲み物を設計すると、体験はさらに豊かになる。
食事の段階によって、飲み物に求められる役割は変わるからだ。
食前は、これから始まる食事に向けて、食欲を促す段階だ。軽やかで、酸のきいた一杯が向く。さっぱりとした柑橘系や、爽やかな炭酸のドリンクが、胃を開き、期待感を高める。
食中は、料理が主役の段階だ。ここでの飲み物は、料理を邪魔せず、引き立てる役に回る。主張が強すぎず、かといって存在感がなさすぎない、料理との対話ができる一杯を選ぶ。前述のボディの釣り合いと、同調・補完の原則が、最も活きる場面だ。
食後は、余韻を楽しむ段階だ。デザートに寄り添う苦味のある一杯や、ハーブの香りでゆったりと締めくくる一杯が向く。食事の記憶を、心地よく閉じる役割を担う。
食前・食中・食後という時間軸で役割を配分すると、単発のペアリングが、一つの流れを持った体験になる。
なお、同じ飲み物でも、提供する温度や炭酸の有無、注ぐグラスの形によって、香りの立ち方や味の感じ方は変わる。(グラスの選び方については、別記事「グラスの形が、ノンアルコール飲料の味を変える」を参照してほしい。)
ペアリングは、設計できる
ノンアルコールのペアリングは、決して勘や才能に頼るものではない。
まずボディの釣り合いを確かめ、同調か補完で味をつなぐ。製法によって味の成り立ちが違うことを知り、コース全体の流れの中で役割を配分する。
これらを一つずつ押さえていけば、誰でも組み立てられる。
飲食店にとって、これは大きな意味を持つ。飲まない客に、料理と調和した一杯を差し出せるかどうかは、その店での食事体験の満足度を大きく左右する。
ワインのペアリングに注いできた思考を、そのままノンアルコールにも向ければいい。飲まない客もまた、料理を最大限に楽しみたいと願っているのだから。
ノンアルコールのペアリングは、これからの飲食店にとって、静かに、しかし確実に、差を生む武器になっていく。



