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決算書から見る、世界の酒類メーカー|カールスバーグ編

2 日前
読了時間: 11分

酒類メーカーがノンアルコールをどう位置づけているのか。それを知るのに、決算書ほど正直な資料はない。


プレスリリースや広告では美しい言葉が並ぶが、決算書には数字と、投資家に向けた率直な説明が載る。どの事業に力を入れ、何を課題と見ているかが、そこに表れる。


今回取り上げるのは、デンマークのカールスバーグ。販売数量ベースで世界第3位のビール会社である。ただし2025年は、この会社にとって「ビール会社であること」の意味が変わった年だった。最新の通期決算であるFY2025(2025年12月期)の決算資料をもとに読み解いていく。


※以下、円換算は便宜上1デンマーク・クローネ=25円で計算している。

決算書から見る、世界の酒類メーカー|カールスバーグ編
1. 会社の輪郭
  • 創業から現在まで

カールスバーグは1847年、J.C.ヤコブセンがコペンハーゲンで創業した。


この会社を特徴づけるのは、科学への傾倒である。1875年にカールスバーグ研究所を設立し、1883年には同研究所のエミール・クリスチャン・ハンセン博士が酵母の純粋培養技術を確立した。


同社によれば、この技術は特許化されず競合他社にも無償で共有され、近代的なラガー醸造の基礎となった。


研究所は現在も稼働しており、決算書では醸造事業とは別枠の「非飲料事業」として報告されている。


  • 何を売っている会社か

国際ブランドとして、カールスバーグ、ツボルグ、1664 Blanc、Brooklynを持つ。加えて各国のローカルブランドが多数ある。


フランスのKronenbourg、ポーランドのZatecky、ギリシャのMythos、イタリアのPoretti、中国の風花雪月(Wind Flower Snow Moon)など。


そして2025年から、事業の構成が大きく変わった。ソフトドリンクである。


2025年1月16日、カールスバーグは英国のBritvicの買収を完了した。


Britvicの起源は1930年代に遡り、1938年にBritish Vitamin Products Companyとして事業化された清涼飲料メーカーで、ロンドン証券取引所に上場していた。


ロビンソンズ、タンゴ、R.ホワイツ、フルーツシュート、フランスのテセール、アイルランドのミワディなど自社ブランドを持つほか、ペプシコの独占ボトラーを務めている(英国は1987年から、アイルランドは2007年から)。決算資料によれば、このペプシのフランチャイズがBritvic売上の約半分を占める。


株式取得の現金対価は287億400万クローネ(約7176億円)。買収発表時、Britvicの普通株式価値は約33億ポンドとされていた。


  • 日本での展開

日本では、サントリーがライセンスを取得して国内生産・販売を行っている。


輸入ではなく国内でのライセンス生産という形をとっている点が、他の外資系ブランドと異なる。


  • 規模感

2025年の総販売数量は1億4800万hl。このうちビールは9900万hl、ソフトドリンクその他飲料は4900万hlだった。前年のソフトドリンクその他は2450万hlだったから、ちょうど倍になった計算だ。


決算資料は「Britvic買収により、ソフトドリンクの比率は倍増し、いまや総販売数量の30%を占める」と記している。ビール会社としては異例の構成である。


2. 会社の規模

FY2025(2025年12月期)の決算を見ていく。


なお、カールスバーグはBritvic買収に伴う無形資産償却を除いた「MPM(経営が定義する業績指標)」を主要な指標として用いている。以下、営業利益はこのMPMベースで記す。


売上収益は890億9500万クローネ(約2兆2270億円)で、報告ベース18.8%増。営業利益は139億9600万クローネ(約3499億円)で22.7%増。営業利益率は15.7%と、前年から大きく改善した。


ただし、この数字の読み方には注意が必要だ。報告ベースの伸びの大半はBritvic買収によるもので、買収と為替の影響を除いたオーガニックベースでは、売上0.6%減、数量2.0%減となる。営業利益はオーガニックでも5.0%増を確保した。


もうひとつ、数字を複雑にしている要因がある。San Miguelのライセンス喪失だ。2025年1月1日から、英国でのSan Miguel販売権を失った。この影響を除くと、オーガニック売上は1.1%増、数量は0.6%減となる。


Britvicの貢献は、数量2400万hl、売上155億8100万クローネ(約3895億円)、営業利益21億9500万クローネ(2億5300万ポンド)。統合シナジーは1億1000万ポンドの目標に対し、初年度で約30%を実現した。当初想定の10〜15%を大きく上回るペースである。


一方、財務面には負荷がかかった。純有利子負債は616億1700万クローネ(約1兆5400億円)。前年の273億5700万クローネから倍以上に増えた。EBITDA倍率は1.73倍から3.28倍へと上昇している。買収資金の調達によるものだ。


3. 部門ごとの状況

カールスバーグは事業を3地域で報告している。

FY2025の地域別売上構成比を示す円グラフ。西欧58.0%、アジア21.6%、中東欧・インド20.4%。中心に売上収益890億8300万クローネ。

※報告ベース。円換算は1クローネ=25円


  • 西欧は、Britvic買収によって様相が一変した地域である。決算資料はこう記している。「Britvicの買収により我々の英国事業は変貌し、アイルランドとフランスのソフトドリンク事業も加わった。地域の販売数量の55%以上が、いまやソフトドリンクである」。


    数字で見ると、西欧のビール数量2610万hlに対し、ソフトドリンクその他は3690万hl。ビールより清涼飲料の方が多い。売上は35.6%増、営業利益は40.0%増と大きく伸びたが、買収効果を除いたオーガニック営業利益成長は0.7%にとどまる。San Miguel喪失の影響を、コスト削減とBritvicシナジーで補った形だ。


  • アジアは、3地域で最も収益性が高い。営業利益率23.2%は西欧の14.3%を大きく上回る。ただし売上は5.8%減、営業利益も3.6%減と苦戦した。


    ラオスとベトナムの数量が落ち込み、通貨安も響いた。中国については、第4四半期に数量が約4%伸び、通年では約1%の成長を確保している。プレミアム帯が中盤一桁台で伸びた一方、メインストリームは消費者心理の弱さから減少した。


  • 中東欧・インドは、売上10.4%増、営業利益13.6%増と最も好調だった。インドが高い一桁台の成長を達成し、カザフスタンでは中盤十パーセント台の成長。第4四半期にはペプシ製品の出荷も始まった。一方、ウクライナは戦争の激化により数量が二桁減少している。なおカールスバーグは、インド事業について「株主価値を高める選択肢を検討中で、IPOの可能性も含まれるが、最終決定はしていない」と決算資料に記していた。その後2026年7月、ロイターはカールスバーグがインド子会社のIPOに向けて非公開の申請を行ったと報じている。


4. 注力している分野
  • Accelerate SAIL戦略と四つの成長カテゴリー

カールスバーグは"Accelerate SAIL"という戦略を掲げ、四つの成長カテゴリーを明示している。プレミアムビール、アルコールフリー飲料、ソフトドリンク、そしてBeyond Beerである。


2025年のオーガニック成長率は、プレミアムビール(San Miguel除く)が5%、ソフトドリンクが3%、アルコールフリー飲料が4%、Beyond Beerが4%減。四つのうち三つが成長し、Beyond Beerのみが減少した。


  • Britvicの統合

2025年最大の取り組みがBritvicの統合だった。決算資料によれば、英国とアイルランドにおける人員面の変更は当初計画より早く完了し、調達の統合も進行中である。


コストシナジーの目標は、2025年10月に1億ポンドから1億1000万ポンドへ引き上げられた。初年度で約30%を実現し、これは当初想定の10〜15%を大きく上回る。


ただし課題もある。フランスのテセール事業は、コスト構造の非効率により想定を下回る業績となり、2026年1月に大規模な組織再編の合意が発表された。ブラジル事業も需要の軟化により数量が減少している。


  • ペプシとの提携拡大

ペプシコとの関係は、Britvic買収によって深まった。


さらにカザフスタンとキルギスでペプシのフランチャイズを取得し、2026年から本格的に販売を加速させる。新しいボトリング工場は2026年下半期の稼働を予定している。


  • プレミアム化

国際ブランドの育成も続く。カールスバーグ全体の数量は4%増だが、プレミアム帯に限れば13%増と大きく伸びた。


中国、ラオス、インド、セルビアなどが牽引している。ツボルグは2%増、1664 Blancは2%増。

5. 直面している課題
  • San Miguelの喪失

2025年1月1日から英国でのSan Miguel販売権を失ったことが、通年の数字を押し下げた。


ただし、これを除けば英国事業の数量は高い一桁台の成長を達成しており、シェアも拡大している。


  • 財務レバレッジの上昇

Britvic買収により、純有利子負債は616億クローネ(約1兆5400億円)に膨らんだ。


EBITDA倍率は3.28倍で、前年の1.73倍から大きく上昇している。


  • アジア市場の軟化

ベトナムでは競争激化と洪水の影響で数量が二桁減。ラオスはマクロ経済の悪化、カンボジアはエナジードリンク事業の競争圧力に直面している。


  • Beyond Beerの不振

四つの成長カテゴリーのうち、Beyond Beerだけが4%減となった。GarageやWind Flower Snow Moonは伸びたものの、Somersbyの落ち込みがそれを上回った。


  • 消費環境の厳しさ

決算資料は「消費環境はほぼすべての市場で厳しい状況が続いた」と記し、2026年についても「ほとんどの市場で消費環境に変化はないと想定している」としている。


6. 決算書から見えてくる、ノンアルコールへの取り組み

さて、本題である。


  • 戦略の柱として明示されている

カールスバーグにおいて、アルコールフリー飲料(AFB)は成長戦略の四本柱の一つとして明確に位置づけられている。プレミアムビール、ソフトドリンク、Beyond Beerと並ぶ扱いだ。


2025年のAFB数量は4%成長した。決算資料はこう補足している。「数量成長はウクライナの困難な市場状況によって抑制された。これを除けば成長率は7%だった」。西欧と中東欧のほとんどの市場で広範に成長し、特にフランス、フィンランド、ポーランド、ギリシャ、セルビア、クロアチアで強い伸びを示した。


  • 具体的な数字

浸透度についても具体的な記述がある。


2025年、AFBは西欧でビール総量の7%、中東欧で5%を占めた。五つの市場では、その比率が10%前後に達している。


グループ全体で見ると、決算説明会でAFBはビール総量の**4%**と説明されている(ソフトドリンクを含む総飲料数量に対しては約3%)。


主力ブランドは、国際ブランドのアルコールフリー版(1664 Blanc、ツボルグ、カールスバーグ)に加え、フランスのTourtel Twist、ポーランドのZatecky、イタリアのPoretti、フィンランドのKarhuといったローカルブランドである。


  • 年間50種類という新製品数

年次報告書には、注目すべき記述がある。2025年、カールスバーグは各市場で50種類のアルコールフリー飲料を投入した。


フィンランドのCrisp Mango-Passion、フランスのTourtel Twist Pineapple、ギリシャのFix Anef Blood Orangeなど、フレーバーの展開が中心だ。


「消費者の関心と関連性を維持するため」と説明されている。


  • 収益性という視点

もう一つ、カールスバーグの語り方には特徴がある。


年次報告書はAFBについて、こう記している。


「このカテゴリーは売上単価と利益率の両方にプラスに働き、我々のトップラインとボトムラインの成長目標を支えている」


多くの企業がノンアルコールを「モデレーション」や「選択肢の拡大」という文脈で語る中で、カールスバーグは収益貢献という観点から評価している。


実際、西欧の売上単価が1.1%改善した要因として、価格引き上げと並んで「プレミアムビールとAFBの成長」が挙げられている。


社会的責任として取り組んでいるのではない。単価と利益率を押し上げる成長カテゴリーとして扱っている。


  • Britvicがもたらしたもの

ここで、買収の意味をもう一度考えたい。


Britvicは清涼飲料メーカーだが、その歴史の中に興味深いブランドがある。


J2Oだ。1998年に発売されたこの果汁ベースの飲料は、パブやクラブ、バーで社交する人々に向けた「アルコールフリーの選択肢」として開発された。


Britvic自身は「1998年のJ2O発売により、アダルト・ソフトドリンク市場を創造した」と述べている。


注目したいのは、その設計思想だ。J2Oは酒の飲用シーンを想定して作られたが、酒の味を模倣してはいない。ビールでもワインでもカクテルでもない、果汁ベースの飲み物として、大人が社交の場で手に取れるものを目指した。


つまりカールスバーグは、Britvicの買収によって、二つの道を同時に手にしたことになる。


既存のビールをゼロ化していく道と、酒を模倣せずに社交の場にふさわしい大人向けの飲み物を作る道。その両方である。


決算書が語ったこと

2025年のカールスバーグは、Britvic買収によって事業構造そのものが変わった年だった。


ソフトドリンクが総販売数量の30%を占め、西欧に至っては55%以上がソフトドリンクになった。買収により純有利子負債は倍以上に膨らんだ。文字通り、会社の形が変わっている。


CEOのヤコブ・オールップ=アンデルセンは、決算発表でこう述べている。


「Britvic買収はグループにとって重要な一歩であり、成長するソフトドリンクカテゴリーにおける我々の地位を強化するものだ。我々は幅広く多様な飲料ポートフォリオを構築する上で、大きな一歩を踏み出した。これは、より広い範囲の消費者ニーズと機会に応えることを可能にするだけでなく、世界水準の醸造企業としての地位も強化する」


その中でノンアルコールはどこにいるのか。


数字だけを見れば、AFBはグループのビール数量の4%。決して大きくはない。だが西欧では7%、五つの市場では10%前後に達しており、着実に浸透している。年間50種類という新製品の数は、この分野への投資の厚みを示す。


多くのビールメーカーは、まず既存ビールの0.0版としてノンアルコールを広げてきた。カールスバーグにも、その戦略はある。ツボルグ、1664 Blanc、カールスバーグのアルコールフリー版がそれだ。


ただしBritvicの買収によって、その外側に巨大なソフトドリンク事業まで持つことになった。四つの成長カテゴリーの中で、アルコールフリー飲料とソフトドリンクは並列に置かれている。ノンアルコールビールは「アルコールの代替」としてだけでなく、飲料ポートフォリオを構成する一つのカテゴリーとしても扱われている。


そして、変化は2025年で止まらなかった。


2026年上期、カールスバーグの成長カテゴリーはさらに加速した。ソフトドリンクが9%増、アルコールフリー飲料が11%増。前年通期の4%から、伸びが明確に上がっている。四つの成長カテゴリー合計では、いまや総販売数量の51%を占める。


そして象徴的な出来事が起きた。ペプシの数量が17%伸び、カールスバーグにとって世界で2番目に大きなブランドになった。世界第3位のビール会社の第2ブランドが、コーラである。


ビール会社がノンアルコールを売り始めた、という話ではない。ビール会社そのものが、飲料会社に近づいている。その変化の中で、ノンアルコールは特殊な代替商品ではなく、成長カテゴリーの一つとして数えられるようになった。


1998年にJ2Oが切り開いた「飲まない大人のための飲み物」という市場は、いまカールスバーグのポートフォリオの一部になっている。ビールと清涼飲料の組み合わせが、新しい機会を開く——CEOの言葉は、そう続いている。その機会の中に、ノンアルコールビールもJ2Oも、同じ列に並んでいる。

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