top of page

決算書から見る、世界の酒類メーカー|ハイネケン編

酒類メーカーがノンアルコールをどう位置づけているのか。それを知るのに、決算書ほど正直な資料はない。


プレスリリースや広告では美しい言葉が並ぶが、決算書には数字と、投資家に向けた率直な説明が載る。どの事業に力を入れ、何を課題と見ているかが、そこに表れる。


この連載では、世界の主要な酒類メーカーの決算資料を一社ずつ読み解いていく。第一回は、オランダのハイネケン。今回は最新の通期決算である2025年通期の決算資料をもとに解説していく。

※以下、円換算は便宜上1ユーロ=185円で計算している。

決算書から見る、世界の酒類メーカー|ハイネケン編
1. 会社の輪郭
  • 創業から現在まで

ハイネケンの歴史は1864年に始まる。当時22歳のヘラルト・アドリアーン・ハイネケンが、アムステルダムの醸造所「デ・ホイベルフ(干し草の山)」を買収した。当時のオランダでは、ジンなどの蒸留酒が広く飲まれていた時代である。


1873年には「ハイネケン・ビール醸造会社」を設立。翌1874年にはロッテルダムに第二の醸造所を開設した。1886年には、パスツールの弟子であるエリオン博士が研究所で「ハイネケンA酵母」を開発する。この酵母は現在もハイネケンビールの根幹をなしている。


20世紀に入ると輸出と海外展開を本格化させ、世界的なブランドへと成長した。


三代目のフレディ・ハイネケンは、同社を国際的なマーケティング企業へと変貌させた人物として知られる(1983年に誘拐事件の被害に遭い、後に映画化されたことでも有名である)。


日本では長らくキリンとの合弁会社が販売を担っていたが、2023年3月に合弁を解消。同年4月から瓶・缶製品はハイネケン・ジャパンが販売している。


一方、樽詰生ビールについては、引き続きキリンビールが製造・販売を担っている。


  • 何を売っている会社か

ハイネケンは、基本的にビールを中心とした酒類の会社である。保有ブランドは340を超え、そのうち5つ——ハイネケン、アムステル、ビラ・モレッティ、タイガー、デスペラードス——をグローバルブランドと位置づけている。


ビール以外では、シードル(りんごの発酵酒)が主要カテゴリーだ。英国のStrongbow、Inch's、Old Moutといったブランドを保有する。同社は自らを「プレミアム、0.0(ノンアルコール)、シードルにおける世界的リーダー」と表現しており、この3つが柱として並ぶ。


清涼飲料については、地域によって扱いが異なる。ナイジェリアのマルティナ(麦芽飲料)のように、特定市場では大きな存在感を持つノンアルコール飲料もある。


2025年のビール以外の販売数量は2410万ヘクトリットルで、総販売数量2億8160万ヘクトリットルに対して約8.6%にあたる(この比率は決算資料の数値から筆者が算出したもの)。また2026年1月に完了した中米FIFCOの買収では、ペプシコのフランチャイズ権も取得しており、地域ごとに清涼飲料事業を持つ形になっている。


つまり「ビールが主軸で、地域によって周辺カテゴリーを持つ」というのが実態に近い。


  • 規模感

従業員は8万7000人以上、70カ国以上で醸造所などの生産設備を運営する。


2025年の総販売数量は2億8160万ヘクトリットル。旗艦ブランドのハイネケンは6270万ヘクトリットルで、グループ全体の約22%にあたる。ブランド単体で全体の2割超を占める、まさに旗艦である。


2. 会社の規模

2025年通期(2025年12月期)の決算数値を見ていく。


純売上高は288億9000万ユーロ(約5兆3400億円)。為替や連結範囲の変動を除いたオーガニックベースでは、前年比1.6%の増加となった。


営業利益は43億8500万ユーロ(約8110億円)で、4.4%の増益。営業利益率は15.2%と、前年から大きく改善している。


一方、販売数量は前年から1.2%減少した。数量は減ったが単価が上がり、収益性は改善した——というのが2025年のハイネケンの姿だ。


3. 部門ごとの状況

ハイネケンは事業を4つの地域に分けて報告している。地域ごとに、まったく異なる表情を見せているのが興味深い。

ハイネケン2025年地域別業績

※増減はいずれもオーガニックベース


  • ヨーロッパ

    最大の売上規模を持つ地域だが、数量は3.4%減、営業利益も4.9%減と苦戦している。ポーランド、オーストリア、フランスでの減少が、英国とスペインの成長を上回った。消費者の価格感応度の高まりに加え、小売業者との取引交渉が一時的に響いたと説明されている。


  • アメリカ大陸

    数量2.8%減、営業利益1.9%減。メキシコとブラジルが主力市場だが、ブラジルでは実質可処分所得の減少や政府補助の縮小で消費が弱まった。米国では数量が二桁減少している。


  • アジア太平洋

    数量4.4%増、営業利益5.1%増と好調だ。ベトナム、インド、ミャンマーが牽引した。ただしこの4.4%は総販売数量の伸びであり、内訳を見ると連結販売数量は0.5%増にとどまる一方、ライセンス生産による数量が27.2%増と大きく寄与している。自社で売った量が伸びたというより、ライセンス供与先の成長が数字を押し上げた面がある。営業利益率21.9%は4地域で最も高い。


  • アフリカ・中東

    数量こそほぼ横ばいだが、純売上高が15.7%増、営業利益に至っては62.0%増という数字を叩き出した。インフレに対応した価格改定と、過去2年の生産性改革の成果が一気に表れた形だ。営業利益率は10.2%から12.8%へと大きく改善している。


欧州に加え、米州でも米国やブラジルなどが苦戦する一方、アジア太平洋やアフリカ・中東の一部市場が成長を牽引する——それが2025年の構図だった。


4. 注力している分野

決算資料からは、ハイネケンが力を入れている領域が明確に読み取れる。


  • プレミアム化

同社が最も明確に打ち出しているのが、高価格帯へのシフトだ。数量が減る市場環境の中で、単価を上げることで収益を確保する戦略である。


2025年、プレミアム帯の数量は2.7%成長した。全体の数量が1.2%減っている中での2.7%増だから、ポートフォリオの重心が明確に上に動いていることが分かる。牽引したのは中国、ベトナム、ナイジェリア、インドなどの市場だ。


同社はこの成長を加速させるため、資源をグローバル5ブランドに集中させる方針を打ち出している。特徴的なのは、旗艦ブランドのハイネケンで培ったブランド構築の型を、他の4ブランドにも横展開している点だ。各国の現地法人がそれぞれ判断するのではなく、中央が管理する共通の型に沿って世界中で同じように実行する。実際、アムステルは中国で数量を倍増させ、ルーマニアでの新規投入にも成功した。


マーケティング投資も、この方針に沿って配分されている。マーケティング・販売費は純売上高の9.9%にあたる28億4900万ユーロ(約5270億円)。そのうち80%以上が、グローバル5ブランドと25の地域重点ブランドに集中投下されている。


  • 生産性の向上

もう一つの柱が、徹底したコスト削減だ。2025年には5億ユーロ(約925億円)を超える削減を達成した。過去5年間の累計では35億ユーロ(約6475億円)を超える。


内訳が興味深い。削減額の約30%はデジタル技術を活用したサプライチェーンと輸送網の最適化から、約50%は調達先との協働や新たな調達施策から、残り20%がその他の施策から生まれている。


つまり半分は「買い方を変える」ことによる削減である。


具体例も挙げられている。ベトナムとカンボジアではアルミ缶の調達コストを約20%削減した。しかも設備投資を追加せずに、である。欧州では複数の醸造所を閉鎖し、市場をまたぐ生産・供給の仕組みを見直した。


そして2026年以降、この取り組みはさらに踏み込む。同社は生産性向上策全体で、年間4億〜5億ユーロ(約740億〜925億円)の削減を目指すと発表した。その施策の一つとして、今後2年間で世界の従業員を約5000〜6000人削減する計画も示されている。


  • 事業ポートフォリオの選別

三つ目が、どの市場に資源を投じるかという判断である。


グローバル企業にとって、70カ国以上に広がる事業のすべてに等しく投資し続けることは現実的ではない。ハイネケンは成長の90%を17の重点市場が生むと見込んでおり、そこに経営資源を集中させる方針を示している。


同時に、持続的な利益と成長の道筋が描けない市場からは撤退するという原則も明言している。


この方針に沿って、2025年から2026年にかけて大きな出入りがあった。買収では、中米FIFCOの飲料・小売事業を10年以上で最大の案件として取り込み、コスタリカの主要飲料会社を傘下に収めた。一方で、シエラレオネからは撤退し、コンゴ民主共和国の醸造所を売却している。


拡大と撤退を同時に進める。成熟市場での需要減が続く中で、限られた資源をどこに配分するかという判断が、これまで以上に厳しく問われているということだろう。


  • デジタルとAIの活用

四つ目が、テクノロジーへの投資である。


中核にあるのが「Freddy AI」と呼ばれる、AIを活用したマーケティング・ブランド構築のプラットフォームだ(名前は、同社を国際的なマーケティング企業へと育てた元会長フレディ・ハイネケンに由来する)。


営業・マーケティング部門にデータやインサイトを提供し、コンテンツ開発や市場での実行、メディアプランニングの最適化を狙うもので、2026年末までに大半の市場へ導入し、グローバルのマーケティング・販売投資の約80%をカバーする計画。


2026年5月には、この取り組みの一環として世界の広告代理店を少数の大手に絞り込む再編も発表された。


生産面では「コネクテッド・ブルワリー」という取り組みが進む。


これは醸造所の設備をインターネットにつなぎ、データを集約する仕組みだ。自社開発のIoT機器で機械をクラウドに接続し、醸造と包装の全工程からデータを集める。集めたデータは、エネルギーや水の使用効率の改善に活用される。


同社は「一度開発したものを、既存のツールを使って一気に全社展開できるのが強み」と説明している。現在、約100の醸造所、約900の生産ラインで、約7000台の設備がネットワークで結ばれている。


小売店とのBtoB取引をデジタル化する「eB2B」プラットフォームも拡大しており、流通総額は130億ユーロ(約2兆4050億円)、約80万の取引先とつながっている。


5. 直面している課題

決算資料は、課題についても率直だ。


最も大きいのは、成熟市場でのビール需要の低迷である。


ヨーロッパの数量は3.4%減、アメリカ大陸は2.8%減。前CEOのドルフ・ファン・デン・ブリンクは決算発表時、「ビール市場の状況について、短期的には慎重な見方を維持する」と述べていた。


コスト構造の見直しも急務とされている。前述の5000〜6000人規模の人員削減は、その表れだ。醸造所の閉鎖、事業からの撤退、業務のシェアードサービス化を進める。


為替も重荷だ。2025年はユーロ高により、純売上高が14億6600万ユーロ(約2710億円)、営業利益が2億9000万ユーロ(約540億円)押し下げられた。オーガニックベースでは増収増益でも、実際に手元に入る数字は目減りしている。


そして経営体制も転換期にある。約6年間指揮を執ったファン・デン・ブリンクは2026年5月末に退任。後任には、コーヒー・紅茶大手JDE Peet'sのCEOを務めていたラファエル・オリベイラ氏が指名され、8月5日の臨時株主総会で承認された。


10月1日付で執行役会会長兼CEOに就任する予定で、任期は4年。同社が外部から経営トップを迎えるのは初めてとされる。需要の低迷という難題に、外部の視点をもって挑む体制になる。


6. 決算書から見えてくる、ノンアルコールへの取り組み

さて、本題である。


ハイネケンの決算資料には「Pioneer in low & no-alcohol(低・ノンアルコールのパイオニア)」という独立した項目が設けられている。これは戦略の柱の一つとして扱われていることを示す。


同社は低アルコール・ノンアルコール製品を「LoNo」という言葉でまとめている。


決算資料の用語集では、LoNoはアルコール度数3.5%以下の低アルコール・ノンアルコールのビール、シードル、および醸造由来のソフトドリンクと定義されている。


2025年の実績はこうだ。


LoNoポートフォリオ全体の数量は低い一桁台の成長。ただし18の市場では二桁成長を記録している。


ハイネケン0.0そのものも低い一桁台の成長で、20市場で二桁成長。特に米国、カナダ、スペインでの伸びが顕著だったとされる。


ここで注目したいのが、成長率とは別の角度から見た数字だ。


グループ全体では、90を超えるブランドにゼロアルコール版が存在する。


ハイネケン0.0が117カ国以上で展開されているのに加え、各市場の地元ブランドにもゼロアルコール版が用意されており、年次報告書によれば、主要市場のほとんどで何らかのゼロアルコール製品が選べる状態になっている。


売れている量はまだ小さくとも、消費者が手に取れる体制は、すでにほぼ整っているということだ。


チャネル面での動きも見逃せない。ハイネケンは欧州の主要市場で1万店舗を超える飲食店にハイネケン0.0の生ビールを設置したと報告している。


瓶や缶で置くのではなく、ビールサーバーから注ぐ形での展開である。同社が「世界No.1のノンアルコールビールブランドとしての地位をさらに強化した」と説明する根拠が、ここにある。


イノベーションへの投資も続いている。オランダに新設したR&Dセンターを活用し、「ハイネケン0.0 アルティメット」という新製品を米国で試験導入し、今後より広く展開するという。


また、健康志向の消費者の間で広がる「アクティブな社交」の潮流を捉えるため、急成長中のラケットスポーツであるパデルのプロツアーと、2026年からのグローバルビールパートナー契約を結んだことも明記されている。


その具体例が、各地域での製品群だ。オランダのTexels Skuumkoppe 0.0、南部アフリカのWindhoek Non-Alcoholic、ビタミンを添加したブラジルのSol Zeroなど、既存ビールブランドのゼロアルコール版が、全体の成長に貢献したとされる。ハイネケン0.0という一本足打法ではなく、各市場の地元ブランドにもノンアルコール版を広げる戦略である。


一方で、数字の読み方には注意が必要だ。決算資料には、LoNo事業の売上高や、全体に占める比率といった具体的な金額の開示はない。


開示されているのは数量の成長率と、展開市場数、そしてカバレッジの比率だけである。


地域別に見ると、欧州の非アルコールビール・シードルは低い一桁台の成長、アメリカ大陸のLoNoは中程度の一桁台の成長と記されている。


そして、責任ある飲酒についての記述にも、ノンアルコールが関わってくる。


ハイネケンは「Low. Slow. No.(少なく、ゆっくり、飲まない)」というモデレーションの標語を掲げ、2025年には「The Low, The Slow and The No」というキャンペーンを展開した。


注目すべきは、その投資規模だ。ハイネケンブランドのメディア支出の26%を責任ある飲酒のメッセージに投じ、世界で14億人にリーチしたという。


ブランドの広告予算の4分の1以上を、この領域に振り向けていることになる。

ノンアルコールは、この「飲まない」という選択肢を支える製品として位置づけられている。


決算書が語ったこと

ハイネケンの2025年決算を通して見ると、この会社が置かれた状況が浮かび上がる。


主力であるビールの数量は減っている。特に欧州や米国での落ち込みが大きい。


それを、価格を上げること、伸びる市場に絞ること、そして徹底したコスト削減で補っている。年間4億〜5億ユーロの削減を目指し、最大6000人の人員削減にまで踏み込むという決断は、その厳しさを物語る。稼ぐ力を守るために、あらゆる手を打っているのが2025年のハイネケンだ。


その全体像の中で、ノンアルコールはどこに位置しているのか。


まず言えるのは、優先順位が明確に高いということだ。決算資料の戦略項目のなかで、ノンアルコールは独立した見出しを与えられている。同社が自らを「プレミアム、0.0、シードルにおける世界的リーダー」と表現するとき、0.0はプレミアムと並ぶ柱として語られる。


専用のR&D施設を持ち、スポーツスポンサーシップという大型投資の対象にもなっている。


一方で、業績を動かす規模には、まだ達していないと考えるのが妥当だろう。


LoNoの成長率は低い一桁台で、爆発的とは言えない。


売上規模の開示もない。少なくとも2025年時点で、営業利益を押し上げているのはプレミアム化と生産性向上であって、ノンアルコールではない。


それでも、飲食店に1万店舗以上の生ビールサーバーを設置するという投資は、目の前の売上以上のものを狙っている。


ノンアルコールビールを「瓶で頼むもの」から「注いでもらうもの」へと変える。これは短期的な数字には表れにくいが、10年後の飲用習慣を形作ろうとする投資だと見ることもできる。


数量が減り続ける成熟市場で、単価を上げるだけでは限界がある。新しい飲用機会そのものを作らなければ、ビール会社の成長は止まる。


ハイネケンにとってノンアルコールは、いまはまだ利益のエンジンではないが、その「新しい機会」を担いうる数少ないカードの一つ。決算書からは、そんな位置づけが読み取れる。


10月に就任する新CEOが、このカードをどう扱うのか。次の決算書が、その答えを教えてくれるはずだ。

bottom of page