サッカーとビール―当たり前が変わるとき
- alt-alc,ltd.

- 7月8日
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ワールドカップが、いよいよ佳境を迎えている。
ノルウェーのハーランド、そして今なお世界を魅了し続けるアルゼンチンのメッシ。スーパースターたちのプレーに、世界が沸いている。
ところでサッカーとビールと言えば。長年日本代表を支えてきたキリンのスポンサードに象徴されるように、分かちがたく結びついてきた。
スタジアムを埋める観客、パブに集まるサポーター、広告板を飾るビールブランド——サッカーとビールは、一体のものとして文化を築いてきた。
ところが近年、その光景に静かな変化が起きている。ノンアルコールが、脇役ではなく主役級の位置に現れ始めているのだ。

公式ビールの交代劇が示したもの
その象徴が、世界で最も見られるサッカーリーグ、プレミアリーグで起きた。
2024/25シーズンから、プレミアリーグの公式ビールが、長年その座にあったバドワイザーからギネスへと交代した。
報道によれば約5200万ポンドとされる4年契約だが、注目すべきはその中身だ。
この契約で、ギネスの通常のスタウトが公式ビールになると同時に、"ギネス0.0"が「プレミアリーグ公式ノンアルコールビール」に指定された。
プレミアリーグは、189カ国・9億世帯に放送される、地球上で最も視聴されるサッカーリーグだ。その公式ノンアルコールビールという座が正式に確立した。かつてノンアルコールビールが「飲めない人のための代替品」だった時代には、考えられなかった位置づけである。
スタジアムの中でも、動きは始まっている
放送やスポンサーシップだけの話ではない。スタジアムで実際に注がれる一杯にも、変化が及んでいる。
アーセナルは、アメリカのノンアルコールビール専業メーカー、アスレティック・ブルーイングと提携した。
彼らのノンアルコールビールが、本拠地エミレーツ・スタジアムの男女全試合で提供され、スタジアム内での試飲や、選手を起用したキャンペーンも展開される。
提携の背景として、アスレティック社は市場調査会社カンターの調査データを引用し、英国では試合日にノンアルコールビールの売上が前年比で約38%伸びたとしている。
観戦の場が、ノンアルコールにとって確かな市場になりつつあることを示す動きだ。
なぜ、いま観戦とノンアルコールなのか
この変化を後押ししているのは、大きな消費者側の潮流だ。
若い世代を中心に、飲酒との付き合い方が変わってきている。「酔うために飲む」のではなく、その日のコンディションや気分に合わせて飲む量を選ぶ。
あえて飲まない日をつくる。こうしたモデレーション(節度ある飲酒)の広がりの中で、ノンアルコールは「飲めない人の妥協」ではなく、「その場を楽しむための、もう一つの選択肢」へと位置づけを変えている。
観戦という場は、この変化と相性がいい。試合に集中したい、翌日に響かせたくない、車で来ている、でも仲間と同じように乾杯の輪に加わりたい——そうしたニーズに、質の高いノンアルコールビールは応えられる。応援の高揚を、アルコールの有無にかかわらず分かち合える。それが、観戦とノンアルコールが結びつく理由だ。
規制という、もう一つの推進力
消費者の変化とは別に、ノンアルコールを表舞台に押し上げてきた力がもう一つある。アルコールをめぐる規制だ。
フランスには、1991年制定のロワ・エヴァン法という、酒類の広告・スポンサーシップを厳しく制限する法律がある。このためフランスで開かれる大会では、酒類ブランドは原則としてスポンサーになれない。
ただし抜け穴があり、アルコール度数1.2%未満の低アルコール・ノンアルコール製品なら許容される。
カールスバーグが2016年の欧州選手権(フランス開催)を協賛できたのは、この仕組みを使ったからだ。規制が、結果としてノンアルコール・低アルコールの活躍の場を用意した。
同じ構造は、ワールドカップでも起きている。2022年のカタール大会では、開催国の文化・宗教的背景から、大会直前にスタジアム内での通常のビール販売が禁止された。
公式スポンサーのビールブランドは、ノンアルコール版を中心とした対応を迫られた。アルコールが制限される場では、ノンアルコールがその穴を埋める。
規制は、ノンアルコールにとって逆風ではなく、むしろ舞台を広げる追い風として働いてきた。
日本の観戦シーンは、どうか
では、日本ではどうだろう。
Jリーグのスタジアムでは、車で来場する観客やファミリー層への配慮として、ノンアルコールビールを置くことは、すでに定番になっている。
一方で、日本のスタジアムのビール文化は近年、地元ブルワリーと組んだクラブオリジナルのクラフトビール開発へと向かっており、そこでノンアルコールが主役として打ち出される場面は、欧州の「公式ノンアルコールビール」のレベルには、まだ達していない。
もっとも、日本には固有の土壌もある。
Jリーグはもともと、サポーター間のトラブル防止などの観点から、スタジアムでのアルコール販売に必ずしも前のめりではないとされる。
飲酒に一定の抑制がかかる環境は、裏を返せば、ノンアルコールが選ばれる余地が大きいということでもある。
観戦は、ノンアルコールの最大級の舞台になりうる
サッカーの観戦シーンは、みんなで飲むという体験が凝縮された場だ。
試合前の一杯、ゴールの瞬間の乾杯、勝利を分かち合う一口。その一つひとつに、これまではアルコールが寄り添ってきた。
だが、その役割は、もはやアルコールだけのものではない。
プレミアリーグの公式ノンアルコールビール、アーセナルのスタジアムに並ぶアスレティックブリューイング——世界の最前線は、観戦の高揚を、アルコールなしでも分かち合えることを示し始めている。
日本でも、スタジアム、スポーツバー、パブリックビューイングといった観戦の場は、ノンアルコールにとって大きな可能性を秘めている。飲む人も飲まない人も、同じ熱量で同じ瞬間を分かち合う――体験をどう設計するかは、飲食店や施設にとっての課題になるはずだ。
参考資料



