スーパーテイスターは何が"スーパー"なのか——味覚の個人差をめぐる科学
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- 2 日前
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同じ料理を囲んでいても、味の感じ方は人によって驚くほど違う。
ある人が「ちょうどいい」と言う一皿を、別の人は「苦すぎる」と顔をしかめる。コーヒーのブラックを好む人もいれば、どうしても受けつけない人もいる。
この違いは、好みやわがままの問題ではない。
味を人一倍強く感じる人々——「スーパーテイスター」と呼ばれる人たちが、実際に存在する。
では、彼らの何が"スーパー"なのか。その正体を探ると、味覚という感覚が、いかに人それぞれかが見えてくる。

味の濃さが、人によって違う
スーパーテイスターという言葉は、1990年代初頭に心理学者リンダ・バートシャックが提唱した。彼女は、実験参加者の中に、ある苦味物質に対して、他の人をはるかに上回る強烈な反応を示す一群がいることを見いだした。
味覚研究では、PROP(プロピルチオウラシル)という苦味物質を使って、味の感受性を測る。
この物質を塗った試験紙を舌に乗せたとき、人の反応は三つに分かれる。
ほとんど無味に感じる「ノンテイスター」
ほどよく苦いと感じる「ミディアムテイスター」
そして耐えがたいほど強烈に苦いと感じる「スーパーテイスター」
おおよその割合は、ノンテイスターが約25%、ミディアムが約50%、スーパーテイスターが約25%とされる。
そしてスーパーテイスターは、苦味だけでなく、甘味も塩味も、唐辛子の辛さや脂肪の舌触りまで、あらゆる味覚刺激を強く感じる傾向がある。
彼らにとって世界は、文字通り「味が濃い」のだ。
「舌の構造」という説明
では、なぜ彼らは味を強く感じるのか。
長く支持されてきた説明が、舌の構造だ。
舌の表面には、茸状乳頭(じじょうにゅうとう)と呼ばれる小さな突起が無数にある。
その一つひとつに味蕾が収まり、味を感じる受容細胞が詰まっている。
バートシャックらの研究は、スーパーテイスターがこの茸状乳頭の密度が高い、と報告した。
乳頭が密集していれば、それだけ味を受け取る面積が増え、わずかな刺激も強く感知できる——という理屈だ。
実際、複数の研究で、スーパーテイスターはノンテイスターより乳頭密度が明確に高いという差が示されてきた。
舌に青い食用色素を塗ると、味蕾を含む乳頭が染まらずに浮かび上がり、数えられる。この簡便な方法もあって、「味蕾の密度が高い人ほど敏感」という説明は広く定着した。
単純な答えではなかった
ところが、話はそれほど単純ではないことが分かってきた。
2014年に発表された大規模なクラウドソーシング研究は、この通説に疑問を投げかけた。
多くの人のデータを集めて分析したところ、舌の乳頭の数の多さが、必ずしも味覚感受性の高さに結びつかなかったのだ。
「密度が高いから敏感」という、長年信じられてきた図式が、大きなデータの前で揺らいだ。
では何が決めるのか。
有力な鍵のひとつが遺伝子だ。TAS2R38という苦味受容体の遺伝子には、主に二つの型がある。機能する高感度の型(PAV)と、機能しにくい低感度の型(AVI)だ。両親からどの組み合わせを受け継ぐかで、苦味を強く感じる人から、ほとんど感じない人まで分かれる。
PROPを苦いと感じるかどうかは、かなりの部分がこの遺伝子で説明できる。
ただし、ここでも単純な結論には至らない。研究者たちは、TAS2R38だけではスーパーテイスティングを完全には説明できない、と認めている。
この遺伝子は「苦いと感じるか否か」を主に決めるが、「中でも極端に強く感じる」スーパーテイスターを生む要因は、それ以外にもある。
乳頭の構造、他の遺伝子、口の中の体性感覚——複数の要因が絡み合っている。スーパーテイスターの正体は、一つの原因に還元できないというのが、現時点の正直な答えだ。
年齢という、もう一つの変数
さらに、味覚の感受性は、生涯を通じて一定でもない。
遺伝子の型は一生変わらないが、同じ人でも、子供の頃のほうが味に敏感だ。
Monell化学感覚研究所の研究によれば、同じ遺伝子型を持つ場合でも、最も薄い苦味溶液を検知できたのは、子供で64%、大人で43%。
子供のほうが明確に敏感だった。
子供がピーマンやゴーヤを「強烈に苦い」と拒むのは、生物として理にかなった反応なのだ。
その背景には、味細胞の絶え間ない再生がある。
味を感じる細胞は、およそ10日から2週間で生まれ変わる、新陳代謝の活発な細胞だ。この再生が、生涯にわたって味覚の感度を保っている。
マウスの研究では、この再生を司るWnt/β-cateninというシグナル経路の活性が、加齢とともに低下することが示されている。再生が衰えれば、味細胞は減り、感度は鈍る。つまり味覚の感受性は、「生まれ持った遺伝子の型」と「年齢による変化」の掛け算で決まっていく。
「万人に最適な一杯」は存在しない
スーパーテイスターという概念が教えてくれるのは、味覚が徹底的に個人的な感覚だということだ。
同じ飲み物を出しても、ある人には豊かなコクが、別の人には強すぎる苦味として届く。
人口の四分の一は、平均よりはるかに濃く味を感じている。そして同じ人でも、年齢とともにその感じ方は変わっていく。
これは、飲み物を設計し、提供する立場にとって、無視できない前提だ。
ホップの効いたノンアルコールビール、ビター系のノンアルコールアペリティフ、複雑なボタニカルの苦味——これらを「ちょうどいい」と感じる人もいれば、「受けつけない」と感じる人もいる。
万人にとって最適な一杯は、原理的に存在しない。
だからこそ、味の設計には幅がいる。
誰か一人の感覚を基準にするのではなく、感じ方の多様性を前提に、選択肢を用意すること。味覚に個人差があるという当たり前の事実は、飲み物の作り手にとって、最も基本的な出発点になる。
参考資料



