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飲料の「カテゴリー」が問い直されている——サントリーの新戦略が示す、市場の構造転換

飲料市場には長らく、自明の分類があった。


ビール、ワイン、スピリッツ、コーヒー、お茶、炭酸飲料、スポーツドリンク。


消費者はカテゴリーを選び、その中でブランドを選んでいた。


メーカーはカテゴリーごとに棚を争い、競合を定義し、マーケティングを組み立てていた。


その前提が、静かに問い直されつつある。

飲料の「カテゴリー」が問い直されている——サントリーの新戦略が示す、市場の構造転換
サントリーが言語化したこと

2026年4月、サントリービバレッジ&フードは「新価値創造プロジェクト」方針を発表し、「ウエルネスケア」と「ムードシフト」の2つを新たな価値軸として打ち出した。


この発表の本質は、新商品を出すということではない。飲料の選択軸が変わったという認識を、日本最大手のメーカーが明示的に宣言したことだ。


リリースの中でサントリーはこう述べている。


「飲料の選択軸は、コーヒーやお茶といった従来の『カテゴリー軸』に加えて、心身にもたらす機能的な価値や、気分・利用シーンに基づく情緒的な価値といった『飲用によって得られる価値を起点とした軸』が台頭しています」


「カテゴリー軸」ではなく「価値軸」——この表現は、従来の市場構造の問い直しを示唆している。

同じ動きは世界で起きている

サントリー固有の問題意識ではない。世界の主要飲料・酒類企業が、ほぼ同時期に同じ方向へ動いている。


  • Diageo

2025年のトレンドレポート "Distilled 2025" の中で「ゼブラストライピング」を主要トレンドとして定義した。


1回の社交の場でアルコール飲料とノンアルコール飲料を交互に飲む行動だ。DiageoのノンアルコールポートフォリオはSeedlip、Ritual Zero Proof、Tanqueray 0.0、Guinness 0.0などを含み、2025年度に約40%成長。


同社は「世界最大のノンアルコールスピリッツプレイヤー」と自称するに至っている。


CEOのDebra Crewはこう語っている――「人々はより洗練された体験を求めている。外出中も、節制したいときにすぐ切り替えられる選択肢を欲している」


これはアルコールとノンアルコールという二分法の解体を意味する。Diageoは今や、ひとつの「飲酒の場面」に対してアルコールとノンアルコールの両方を提供する企業として自社を再定義している。


  • Coca-Cola

コカ・コーラの戦略はより象徴的だ。


2025年、同社はプレバイオティクスコーラ「Simply Pop」を市場投入した。コーラというカテゴリーに機能性という価値を埋め込む動きで、Food Navigatorはこれを「ポートフォリオ主導の戦略」と評している。


単一ブランドの強化ではなく、Zero Sugar・Smartwater・Fuze Teaといった異なるカテゴリーのブランドをポートフォリオとして束ね、消費者の健康・節制・プレミアムという価値動機全体に対応しようとする戦略だ。


  • PepsiCo

ペプシコも同様の方向に動いている。


2025年3月にプレバイオティクスソーダのスタートアップPoppiを約20億ドルで買収し、同年7月には自社ブランドのPepsi Prebiotic Colaを開発・発表した。


コーラという長年の主力カテゴリーに腸内環境への機能的価値を組み込むことで、健康意識の高い消費者を取り込む戦略だ。


PepsiCo Beverages U.S. CEOのRam Krishnanはこう語っている。「私たちのポートフォリオは、常に消費者のニーズと味の好みに合わせて進化してきた」。

カテゴリーの境界が意味を失う、その根拠

カテゴリーとはもともと、供給側の論理で引かれた線だ。


「これはビールである」「これはお茶である」という分類は、製造工程・流通・課税・競合設定を管理するうえで便利だった。


メーカーはカテゴリーを起点に商品を設計し、棚を取り、マーケティングを組み立てた——プロダクトアウトの発想だ。


この構造が機能していたのは、消費者の選択動機がシンプルだった時代だ。「喉が渇いたからコーラを飲む」「飲み会だからビールを頼む」。カテゴリーと消費動機がほぼ一致していた。


しかし消費者が飲み物に求めるものが変わった。Innova Market Insightsの調査では、消費者の約3分の1が「予防的な健康管理」を動機として飲料を選んでいる。


「今夜は気分を切り替えたい」「翌朝に疲れを持ち越したくない」「集中力を上げたい」——こうした具体的な目的から飲み物を選ぶ消費者が増えるとき、起点は「カテゴリー」ではなく「自分がその飲み物で何を得たいか」になる。


これがマーケットインへの転換だ。消費者の動機・シーン・ニーズから逆算して商品を設計するとき、カテゴリーという既存の線は制約になる。


サントリーが「価値軸」と呼び、Diageoがゼブラストライピングをポートフォリオ戦略の中心に置き、Coca-ColaとPepsiCoが機能的価値を既存カテゴリーに組み込んでいるのは、いずれもこの転換への対応だ。

ノンアルコールはこの文脈にある

ノンアルコール飲料の台頭は、この構造転換の最も可視的な表れだ。


「アルコール飲料 vs ノンアルコール飲料」という対立軸は、カテゴリー思考の産物だ。


しかしゼブラストライピングが示すように、消費者は一回の飲酒機会でアルコールとノンアルコールを場面ごとに選んでいる。


「飲む・飲まない」という二択ではなく、「今この瞬間、何を体験したいか」という問いに応えるための選択だ。


Beverage Dailyはこう指摘する――「ソフトドリンクがアルコールのシェアを奪おうとするとき、ボタニカルや複雑なフレーバーノート、あるいはリラクゼーションや軽い高揚感をもたらす機能成分を使って、より洗練された大人向けのプロフィールを作ろうとする」


ノンアルコール飲料がアルコール飲料の「代替品」ではなく、同じ「シーンへの応答」として設計され始めている。

飲食店への示唆

この変化は、飲食店のドリンクメニュー設計にも直接的な影響を持つ。


「ビール・ワイン・ソフトドリンク」というカテゴリー別の構成は、供給側の論理だ。


消費者が「食前に気分を切り替えたい」「食中に胃を整えたい」「夜遅い食事で翌朝に響かせたくない」という動機で飲み物を選ぶなら、メニューの設計軸も変わりうる。


ノンアルコール飲料を「ソフトドリンク欄の隅」に置くことは、カテゴリー思考の名残だ。


「今夜どんな時間を過ごしたいか」という問いに応える飲み物として設計されたとき、ノンアルコールはカテゴリーを超えた選択肢になる。


カテゴリーの境界が意味を失っていくとき、最初に恩恵を受けるのは「カテゴリーに縛られていない飲み物」だ。


参考資料

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