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割る・伸びる・薄まる

更新日:2022年9月15日





前回の『蒸留ってなんだ?』に続いて、今回のブログテーマでもある味わいが伸びるって何だろうという素朴な疑問を考えるための土台であった。


水割り、ソーダ割り、トニック割り、と様々なものでお酒を割って楽しむ文化がある。


ノンアルコールスピリッツのようなものが出てきている昨今、改めて割って味わいがのびるもの、薄まるものの違いを考えてみたい。



前回の蒸留についての学びから、蒸留の際の熱を利用することで単純な浸漬では得られないボタニカルの香気成分を(濁りを気にすることなく)抽出できることが分かった。


そう考えていくと、何かで割った際の香りや味わいの伸びとは、もちろん単純なアルコール度数やシロップなどの糖分量の影響するところも大きいが、呈味成分や香気成分の多寡が大きな要因となるということも見えてくる。


ノンアルコールの伸び

ノンアルコールに限って考えると、基本的に水は油となじまないため、香気成分を持ちづらいという問題がある。


このため、蒸留させたノンアルコールスピリッツのようなものが注目を浴びている。


その他には、乳化も一つの可能性として挙げられるかもしれない。


乳化させた飲料は、親水性(水になじみやすい性質)と疎水性(水になじみにくい性質)の双方を持つ界面活性剤を媒介として油と結びつくことができるため、香気成分を持ちやすく、割ったあとも十分な伸びが期待できる。


アルコールの伸び

アルコールは、水にも油にも溶ける性質を持っており、様々な香気成分を溶かすことができるため、なにかで割った後にも伸ばして使いやすい。


ボタニカルを用いる蒸留酒などは、ボタニカルに含まれる精油成分を溶かしこんでいるため、ものによっては香水のようあ華やかな香りを呈することができる。



蒸留酒の香気成分については、面白い研究がある。今年の7月に発表されたある研究では、ジンの蒸留方法であるバスケット法と浸漬法それぞれについて、10種類のテルペン系香気成分に着目し、量的比較を行っている。


 

事前知識として、バスケット法と浸漬法について簡単に説明する。


ジンは、通常の蒸留で得られる最高濃度96%のアルコールとボタニカルを用いて蒸留を行う。


アルコールを蒸発させた蒸気にボタニカルをくぐらせるのがバスケット法、ボタニカルをあらかじめアルコールに浸け込み蒸発させるのが浸漬法である。


一般的に、バスケット法で造られるジンは味わいや香りの華やかなもの、浸漬法で造られるジンはより濃密な味わいや香りを有するものになると言われている。


 

研究について、話を戻すと今回の研究では『分子と化合物の初歩』でも紹介した精油に多く含まれる香気成分であるテルペンについて着目し、10種類のテルペンの量的比較を行っている。


なんと結果は、10種類中9種類のテルペンは浸漬法よりもバスケット法で蒸留されたジンに多く含まれ、リナロール(参照『食の香気成分一覧』)のみ浸漬法で蒸留されたジンに多く見つかった(バスケット法の1.7倍)。


なぜ一般的に香りが強いとされている浸漬法の方がテルペン系香気成分の量が少ないのか、といった疑問も残るが、製法によって抽出される香気成分の種類や量が変わるということの一例として見ることができる。


ウィスキー論争の終結

最後に、おまけとして愛好家の中でも好みが分かれる、ウィスキーの飲み方。ストレート、ロック、水割り、どれが一番美味しく飲めるのか?


この議論の科学的決着について簡単に触れておく。


2017年、科学誌としては世界的な権威を誇る"NATURE"において、ウィスキーには数滴の水を垂らす方が美味しく楽しめるという科学的結論が出された。


NATURE誌によると、ウィスキーに含まれる、主にピートなどのスモーキーな香りを司る香気成分のグアイアコールが水割りの際に重要な役割を果たすという。


グアイアコールは、高アルコール濃度下ではグラスの表面には現れづらく、液面にないため揮発して香りとして届きにくい状態にある。しかし、加水してアルコール濃度を下げてあげるとグアイアコールは液面にあがってくるため、より香りが感じやすくなる。


グアイアコールのような性質をもつ味わいや香り成分がウィスキーには多いため、わずかでも加水した方が美味しく飲めるということである。


また、多くの香気成分は水になじみづらい疎水性であるため、水を入れるとそこから逃げるように揮発する傾向にある(アルコール濃度が高いとアルコールと結合するため揮発しづらい)とも言われている。


参照サイト

"Dilution of whisky – the molecular perspective" Björn C. G. Karlsson & Ran Friedman

"The Science of Dilution" Alcademics

"Quantitative Comparison of Volatiles in Vapor Infused Gin versus Steep Infused Gin Distillates" Jan Hodel, Matthew Pauley, Maarten C. J. K. Gorseling, Annie E. Hill

School of Engineering & Physical Sciences

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