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クラフトコーラはなぜブームになったのか——スパイスとハーブが生んだ新カテゴリー

コーラという飲み物のイメージは、長らく一つに固定されてきた――コカ・コーラとペプシ。


世界の市場をこの二大ブランドが席巻し、味わいはほぼ画一化されている。


クラフトビール、クラフトジン、クラフトコーヒーと、嗜好飲料の多くが「個性を楽しむ」方向へ枝分かれしていく中で、コーラだけは大量生産の均一な味のまま取り残されていた。


その固定観念に、2018年頃から風穴が開いた。スパイスとハーブを効かせ、手作りで個性を追求する「クラフトコーラ」の登場である。

クラフトコーラはなぜブームになったのか——スパイスとハーブが生んだ新カテゴリー
ブームの先駆者

クラフトコーラという市場を切り開いたのは、2018年に相次いで生まれた二つのブランドだ。


ひとつは、東京・下落合の伊良(いよし)コーラ。


コーラ好きが高じて立ち上げたブランドで、和漢方職人だった祖父の調合技術にヒントを得て、コーラの実(コーラナッツ)を中心に、カルダモンやナツメグなど十数種のスパイスと柑橘を配合する。


2018年夏に「世界初のクラフトコーラ専門メーカー」を名乗って始動し、ファーマーズマーケット、キッチンカー、百貨店の催事、そして路面店へと販路を広げた。1杯500円という一般的なコーラより高い価格帯ながら、リピーターを獲得していった。


もうひとつが、同じく2018年に始まった、ともコーラ。


和素材を生かし、薬膳的な天然材料で作る。地元の食材を使った地域活性化を志向する点で、クラフトビールやクラフトジンの展開と重なる方向性を持っていた。


この二つが先鞭をつけ、クラフトコーラは新しい嗜好飲料のカテゴリーとして立ち上がっていった。

なぜ今、ブームになったのか

クラフトコーラの台頭には、いくつかの背景が重なっている。


第一に、クラフト文化の成熟だ。


クラフトビール、クラフトジン、そしてクラフトコーヒー。個性や作り手のこだわりを楽しむという消費の作法は、コーラに先んじて定着していた。「大量生産品ではない、手作りの個性派を選ぶ」という回路が、すでに消費者の中にできていたのだ。クラフトコーラは、その流れに自然に接続した。


第二に、健康志向だ。


クラフトコーラの多くは天然素材・無添加を売りにする。そして面白いことに、これはコーラの原点への回帰でもある。そもそもコーラは、19世紀後半にアメリカの薬剤師が、複数の天然素材を調合して生み出した、滋養強壮を謳う飲み物だった。人工甘味料や香料で画一化される前の「植物由来の飲み物」という出自に、クラフトコーラは立ち返っている。


第三に、コーラという飲料が持つ「余白」の大きさだ。


コカ・コーラのレシピが企業秘密であることはよく知られているが、裏を返せば、コーラは「自分で作れる」とは思われてこなかった。クラフトコーラの登場は、「コーラは作れる」という発見そのものをもたらした。もともとコーラがスパイスとハーブの調合物である以上、原点に立ち返れば、個性を出せる余地は意外なほど大きかった。


そして第四に、世代によって「刺さり方」が異なるという点も見逃せない。


これはデータで裏づけられた話ではなく、一つの見方だが——スパイスの効いたクラフトコーラの味わいは、駄菓子のコーラ菓子に親しんできた世代には、どこか懐かしい「再発見」として届く。一方、そうした原体験の薄い若い世代にとっては、同じ味が「新しい発見」として映る。同じ一杯が、世代によって懐かしさと新しさという別の魅力で受け取られている。これが、ブームの裾野を広げている可能性がある。

市場の広がりと、大手の参入

ブームが可視化されると、市場は一気に広がった。


2021年6月には、カルディコーヒーファーム、成城石井といった食のセレクトショップ、さらにポッカサッポロやペプシコといった大手までもが、相次いでクラフトコーラ系の商品を投入した。


翌2022年1月にはアサヒ飲料が「三ツ矢クラフトコーラ」を通年商品として市場に投入し、発売1〜2月で計画比約2割増の43万ケースを販売した。日経トレンディはこれを「小規模メーカーが中心だったジャンルに、ついに大手飲料メーカーが参入した」と評している。


同時に、各地で地域密着型のクラフトコーラが続々と生まれた。地酒や地ビールのように、その土地の素材や特色を打ち出した銘柄が全国に登場し、2022年春には全国32社が集まる専門イベントも開かれた。伊良コーラやともコーラが切り開いた市場は、いまや無数のプレイヤーがひしめく場へと育った。

ブームは、どこまで続いたか

検索注目度というひとつの指標で見ると、クラフトコーラへの関心の推移がはっきりと見えてくる。


ブームは、どこまで続いたか

Google トレンドで「クラフトコーラ」の検索動向をたどると、2020年後半から関心が立ち上がり、2021年夏に大手参入ラッシュと重なって最初の山を作る。そして2022年春、テレビ番組での特集が重なった時期に、注目度はピークに達した。その後は基調として沈静化し、現在はピーク時の3分の1ほどの水準で推移している。


ただし、見落としてはならないのは、ブーム前のほぼ無風だった状態には戻っていないことだ。関心は一定の水準で下げ止まり、横ばいに定着している。


爆発的な流行は去ったが、カテゴリーそのものは消えずに根を張った——そう読むこともできる。(検索注目度は相対的な関心の指標であり、市場規模そのものの増減とは区別して捉える必要がある点には留意したい。)

新カテゴリーが直面する局面

ブームの発生から数年が経ち、クラフトコーラは新たな局面を迎えている。


ひとつは、ブランドの乱立だ。市場が広がり参入が容易になったことで、銘柄の数は急増した。だが選択肢が増えれば増えるほど、一つひとつのブランドは埋もれやすくなる。先駆者が「手作りの個性」で築いた価値が、似た商品の氾濫の中で薄まっていくリスクがある。


もうひとつは、大手資本の存在だ。個性とストーリーで小規模な作り手が耕してきた市場に、量産と流通の力を持つ大手が参入してくる。新しい市場を小さなプレイヤーが切り開き、軌道に乗った段階で大手が広く刈り取る——これは多くの嗜好品市場で見られる展開でもある。


さらに、クラフトコーラが語られる文脈が「丁寧な暮らし」「作り手の物語」といった情緒的な価値に偏りがちで、「どんな時に飲むのか」という日常の飲用シーンや機能的な魅力が伝わりにくい、という指摘も業界内からは出ている。

ブームの先にあるもの

クラフトコーラは、寡占と画一化が極まっていたコーラ市場に、「個性」という一点で割って入った新カテゴリーだ。


コーラはもう作れない飲み物ではなくなり、スパイスとハーブの組み合わせ次第で無数の表情を持つ飲み物として再発見された。


その意味で、クラフトコーラがもたらしたものは、単なる新商品の流行ではない。


「画一化された飲み物にも、個性を取り戻す余地がある」という発見そのものだ。


問われているのは、この発見をブームで終わらせないことだ。


検索の山が過ぎても、一定の関心が残ったことは、定着への足がかりがあることを示している。


話題性や作り手の物語だけでなく、日常のどんな場面で手に取られる飲み物になれるか。新カテゴリーが根を張れるかどうかは、その一点にかかっている。


参考資料

 
 
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