なぜ今、中国でノンアルコールワインが急拡大しているのか——アジア最大市場で起きていること
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- 23 時間前
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世界のノンアルコール飲料市場を語るとき、中国はしばしば「これから」の市場として語られてきた。
しかし2025年から2026年にかけて、その見方が変わりつつある。
中国はすでにアジア太平洋地域におけるノンアルコールワイン消費の約31%を占める最大市場だ。
そしてこの市場が今、構造的な変化を背景に急速に拡大している。

「乾杯できない人」から「乾杯したくない人」へ
中国でノンアルコール飲料が最初に普及したのは、宴席でアルコールを飲めない人のためだった。
運転者、妊婦、体質的に飲めない人——こうした人々が「形だけ乾杯する」ために使う飲み物として、ノンアルコールワインは一定の需要を持っていた。
しかしここ数年で、消費の動機が変わってきている。
「飲めないから飲まない」から「飲まないことを選ぶ」へ。
若い世代を中心に、アルコールを摂取しないライフスタイルが広がっている。キャンプ、ピクニック、アウトドアの集まり——こうした場で「場の雰囲気を壊さずに飲まない」選択肢としてノンアルコールワインが使われ始めている。
また家族の食卓という新しいシーンも台頭している。
祖父母・親・子供という多世代が一つのテーブルを囲む場面で、全員が同じグラスを持って乾杯できる飲み物への需要が生まれている。
飲酒禁止令が追い風になった
2025年5月、中国政府は公務員の公式行事での飲酒を全面的に禁止した。
官公庁の宴席でアルコールを出すことが禁じられたことで、代替となる飲み物への需要が一気に高まった。
この規制は中国の高級酒市場、特にバイジュウ(白酒)に打撃を与えた。
一方でノンアルコール飲料にとっては構造的な追い風となった。「乾杯の場にアルコールがない」という状況が公式に認められたことで、ノンアルコール飲料を選ぶことへの心理的なハードルが下がったからだ。
業界の中には「2025年が中国ノンアルコールワインの元年」だとするならば、2026年から本格的な成長フェーズに入るという見方をする関係者もいる。
輸入品が主導し、国産が追いかける
現在の中国ノンアルコールワイン市場は、輸入品が主導している。
脱アルコール技術の成熟度で海外メーカーが先行しているためで、中国のECプラットフォームで「ノンアルコールワイン」を検索すると、上位のほとんどが輸入品だ。
その中で注目される事例がAuswan Creekだ。オーストラリア拠点のこの企業は、オーストラリアのベースワインを中国に輸送し、現地で脱アルコール処理を行ってから瓶詰めするという独自のモデルを採用している。
鍋料理や海鮮料理に合う白ワインとして設計されたノンアルコールブランド「Blue Lobster」は2024年に発売され、2025年には約50万本を販売した。
一方で国産ブランドも動き始めている。
中国最大手のワインメーカーChangyu(張裕)とGreat Wall Wine(長城葡萄酒)がノンアルコール製品の開発に着手しており、Dynasty Winery(王朝酒業)とCitic Niya(中信尼雅)はすでに複数の商品を市場に投入している。
中国最大の蒸留酒メーカーとして知られるKweichow Moutai(貴州茅台)は、ローアルコールではあるものの、6%ABVのブルーベリースパークリングワインをiMoutaiプラットフォームで発売し、初日に1万3000本以上を売り上げた。
定義のないまま拡大する市場——規制整備の動き
この市場拡大には、一つの構造的な問題が伴っている。
中国にはノンアルコールワイン専用の国家標準(GB)が存在しない。「ノンアルコールワイン」と「アルコール不使用の果汁飲料」の法的な区別が曖昧なまま、市場だけが先行して拡大している状態だ。
2026年4月、中国酒業協会(China Alcoholic Drinks Association)がノンアルコールワインのカテゴリー規制整備に向けて動き始めたことが報じられた。
規制の具体的な内容はまだ明らかになっていないが、カテゴリーの定義・脱アルコール方法の基準・表示ルールの整備が課題として認識されている。
規制整備は市場の成熟を示すと同時に、参入障壁を高める可能性もある。基準が定まれば粗悪品が排除される一方、対応コストが増す零細メーカーは市場から退出を迫られるかもしれない。
日本への示唆
中国市場で起きていることは、ノンアルコール飲料の普及における一つの普遍的なパターンを示している。
最初は「飲めない人のための代替品」として市場が立ち上がる。
次に「飲まない選択をする人」が加わることで、消費の動機が多様化する。
そして消費シーンが「特別な事情がある場」から「日常の食卓や社交の場」へと広がることで、市場が本格的に離陸する。
日本市場はこのサイクルのどこにいるか。
「飲めない人のための代替品」という位置づけはすでに超えつつある。次の問いは、「飲まない選択をする人」が日常的にノンアルコール飲料を手に取る理由を、いかに設計するかだ。
中国の急拡大が示唆するのは、その答えが「飲み物の質」だけにあるのではなく、「シーンの設計」にあるということだ。
参考資料



