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ノンアルコールが、急においしくなった理由——製造技術、この5年の進化

「ノンアルコールって、なんか薄いんだよな」


そう感じていた人ほど、最近のノンアルコール飲料を飲んで驚くかもしれない。


ビールはホップの苦みとモルトの厚みを持ち、ワインは果実の複雑さと余韻を備え、スピリッツは植物由来のボタニカルが鼻腔を抜ける。


数年前とは、明らかに別物だ。

何が変わったのか。答えは「どうつくるか」にある。


ノンアルコールが、急においしくなった理由——製造技術、この5年の進化
ノンアルコール飲料の「つくり方」は、ひとつじゃない

まず前提として、ノンアルコール飲料の製造アプローチは大きく3つに分かれる。


  1. 脱アルコール方式——いったんアルコールを含む飲料を造り、後からアルコールだけを取り除く。引き算の発想だ。ビールやワインなど、本来の発酵プロセスから生まれる複雑な風味を最大限活かせる一方、「いかに繊細にアルコールだけを抜くか」という技術力が品質を左右する。

  2. インフュージョン方式——ボタニカルや植物素材を抽出・調合し、複雑な風味を「足し算」で構築する。発酵やアルコールを前提としないため、設計の自由度が高く、素材そのものの個性を前面に出せる。ノンアルコールスピリッツの多くがこのアプローチを採用している。

  3. 発酵制御方式——発酵プロセス自体をコントロールし、最初からアルコールをほとんど生成しないようにつくる。酵母の種類や発酵条件を精密に管理することで、発酵由来の風味を保ちながら低アルコールに抑える。


この3つは優劣ではなく、目的と素材によって使い分けられるものだ。


そしてここ数年、それぞれのアプローチで技術の進化が加速している。今回は脱アルコール方式にフォーカスして、何がどう変わったのかを見ていく。

アルコールを「抜く」ことの、本当の難しさ

脱アルコール方式の前提として理解しておきたいことがある。


アルコールは単に「酔いの原因」ではない。風味の溶媒として機能し、口当たりに厚みをもたらし、揮発性香気成分を運ぶ役割を担っている。雑に取り除けば、薄くて平板な液体だけが残る。


この矛盾を解くのが、脱アルコール技術の進化だ。

3つの主要技術と、その「繊細さ」の競争

現在、商業生産で使われる脱アルコール技術は主に3つある。それぞれに強みと特性があり、カテゴリーや品質目標によって使い分けられている。


  • 逆浸透膜(Reverse Osmosis)

高圧をかけた膜を通じて、アルコールと一部の水分を分離する手法。


大きな分子——つまり風味成分——は膜を通過しないため、理論上は香気成分を保持したまま脱アルコールできる。


低温で処理できるため、熱変性リスクが低い点も特長だ。ノンアルコールビールで広く採用されている。


  • 真空蒸留・スピニングコーンカラム(Spinning Cone Column)

真空下でアルコールの沸点を下げ、低温で蒸発させる手法。


その発展形がスピニングコーンカラム(SCC)で、約40枚の交互配置されたコーンが液体に薄い膜を形成し、最大限の表面積で処理する。


SCCの最大の特徴は「香気の先出し」だ。最初の処理で、揮発性の高い香気成分だけを先に取り出して別容器に保存する。次にアルコールを除去し、最後に保存しておいた香気成分を戻す。「抜く前に守る」という順序が、風味の損失を最小化する。


ノンアルコールワインとしても世界最大級メーカーであるスペインのTorresも、このSCC技術を採用している。


  • GoLoシステム(新世代の単一工程技術)

GoLoシステムは、SCCとは異なる発想の技術だ。SCCが「香気を先に救出してからアルコールを抜く」のに対し、GoLoは揮発性化合物を100%分離しながら同時にアルコールを除去するという単一工程で処理する。


詳細な技術仕様は非公開だが、SCCで課題とされていた風味と食感の損失をさらに軽減できるとして、大手ワイナリーが試験導入を進めている。

ビールが先行し、ワインが追い上げる

技術の成熟度という点では、ノンアルコールビールが先行している。


ビールはワインに比べてもともとのアルコール度数が低く(多くは5%前後)、脱アルコールの難度が相対的に低い。さらにホップの強い香りが、処理中に生じるわずかなオフフレーバーをカバーしやすい。


ワインは後発だが、急速に追い上げている。EUが2023年1月にすべての原産地呼称ワインへの脱アルコールワイン規制統合を認めたことで、大手ワイナリーが公式に参入できる環境が整った。


SCCやGoLoのような技術が普及した結果、脱アルコールワインのグローバル市場は2024年時点で約25億ドル規模に達している。

「まずい」から「悔しいほどうまい」へ

技術の進歩を象徴するエピソードがある。


ワイン文化の守護者を自任するフランスでも、ノンアルコールワインの消費が拡大している。品質への信頼なしには起きえない変化だ。


飲食業界でも変化が起きている。フィラデルフィアのFour Seasons Hotelがノンアルコールセクションをメニューに導入したところ、5ヶ月でその前年の年間販売数の2倍を売り上げた。


「オプションとして置く」から「売れる商品として設計する」への転換が、現場レベルで起きている。

技術進化が意味すること

かつてノンアルコール飲料の「まずさ」は、技術的な限界の問題だった。


脱アルコール方式では熱をかけすぎれば香気が飛び、膜を通せば風味が薄くなる——そのトレードオフを乗り越えられなかった。


今は違う。SCCの2パス方式、GoLoの単一工程、逆浸透膜の低温処理。


「いかに繊細にアルコールだけを取り出すか」という技術競争が、品質の底上げをもたらした。


飲食店やバーの視点から言えば、これは「お客様に説明できる品質の根拠」が生まれたことを意味する。製法への好奇心を、メニューや接客の入り口にできる時代になってきた。


参考資料


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