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ノンアルコールワインを飲んでいるのは、どの国か——消費ランキングの「ズレ」が教えてくれること

世界のワイン消費地図と、ノンアルコールワインの消費地図は、よく似ているようで、微妙にずれている。


そのずれに、ノンアルコールワイン市場の本質が隠れている。


ノンアルコールワインを飲んでいるのは、どの国か——消費ランキングの「ズレ」が教えてくれること
世界のノンアルコールワインは、5市場に集中している

IWSRのデータをもとにWine Australiaが2025年2月に発表したレポートによると、2023年のノンアルコールワイン世界消費量は約450万ケースで、その4分の3が5つの市場——米国、英国、フランス、ドイツ、オーストラリア——に集中している。


同年、ノンアルコールワインの消費量が最も多いのは米国で約100万ケース。2028年には約180万ケースに達すると予測されており、成長速度においても世界をリードしている。英国は現時点では米国に次ぐ規模で、2028年には100万ケースを超える見通しだ。


一方、このレポートはアジアについて明確に指摘している。「アジアにはノンアルコールワインのほぼ存在感がない」と。

通常ワインの消費ランキングと比べると、何かが見えてくる

OIVの2024年データによる通常ワインの世界消費量ランキングは、米国、フランス、イタリア、ドイツ、英国の順だ。ノンアルコールワインの上位5市場(米・英・仏・独・豪)と並べると、4カ国が重なる一方で、2つの興味深い差異が浮かぶ。


  • ひとつは、イタリアの不在だ。


イタリアは世界最大のワイン輸出国でありながら、ノンアルコールワインの上位市場には入っていない。


差異は規制ではなく、生産者の姿勢にある。


Market Watch誌の取材に対し、Banfiをはじめ複数のイタリア大手ワイナリーが『伝統的な製法を守る』としてノンアルコール路線を明確に否定した。


ドイツで100以上のワイナリーが脱アルコール技術に積極投資してきたのとは対照的だ。需要がないわけではない——Italian Food Newsによれば18〜34歳の28%がノンアルコールワインに関心を示している。供給側の意思決定が市場の成長を抑えているという構図だ。


  • もうひとつは、オーストラリアの存在だ。


オーストラリアは通常ワインの世界消費ランキングでは上位に入らないが、ノンアルコールワインでは世界5位に入る。


Wine Australiaのレポートではローアルコールワイン(低アルコール)においても豪州は米国に次ぐ第2位の市場だ。


新世界ワイン産地として技術革新に積極的な気質、若年層の健康志向の高さ、そしてIWSRが指摘する「ノンアルカテゴリーの多様性への参入が早い」というオーストラリア市場の特性が、ここに表れている。

なぜノンアルワインの先進地になったのか

上位5市場のなかで最も長い歴史的背景を持つのがドイツだ。


ノンアルコールワインの脱アルコール製法の特許がドイツで取得されたのは1907年。それから100年以上、ドイツのワイナリーはこの技術を磨き続けてきた。


現在、約100のドイツワイナリーがノンアルコールワインを生産しており、その品質は世界市場でも評価されている。Beverage Dailyによると、2024年のドイツ国内ノンアルコールワイン販売は前年比68%増を記録した。


技術的な蓄積に加えて、品種的な優位性もある。ドイツを代表する品種リースリングは、もともとアルコール度数が低く、脱アルコール処理後も風味が残りやすい。温暖化が進む産地では糖度が上がりすぎてアルコールが高くなりがちだが、ドイツの冷涼な気候はリースリングの自然な低アルコール化を助けている。


一方、英国のノンアルコールワイン市場を後押ししたのは、政策の変化だ。2023年の酒税改革により、アルコール度数3.5%以下の飲料に大幅な減税が適用されるようになった。


ノンアルコールワインに直接適用される税制優遇ではないが、低アルコール・ノンアルコール飲料全体への追い風となり、メーカーの投資と棚の拡充を促した。


米国では、Dry Januaryの定着とソーバーキュリアスムーブメントが需要を牽引している。


「飲める、でも今日は飲まない」という積極的な選択をする層が、ノンアルコールワインに品質と価格を問う購買行動をとっている。

5市場に共通するもの——「ワインが選択肢にある文化」

米・英・仏・独・豪という5市場に共通するのは、ワインが日常的な選択肢として文化に組み込まれていることだ。


ワインを飲む習慣がある人が「今日はアルコールを控えたい」と思ったとき、ノンアルコールワインという選択が自然に生まれる。


裏を返せば、そもそもワインが日常の選択肢にない市場では、ノンアルコールワインへのニーズも発生しにくい。アジアにノンアルコールワインの存在感がない理由は、単に「健康志向が低いから」ではなく、「ワイン自体が選択肢の中心にないから」という構造的な理由が大きいと考えられる。


日本のノンアルコール飲料市場でワインテイストが約2.5%(サントリー2025年見込み)にとどまっているのも、同じ文脈で理解できる。ビールテイストが約76%を占めるのは、日本の飲酒文化の中心にビールがあるからだ。ノンアルコールビールが育つ土壌と、ノンアルコールワインが育つ土壌は、別々に存在している。

飲食店・ホテルが今知っておくべきこと

ノンアルコールワインの市場成長は、すでにレストランやホテルの現場に届きはじめている。


IWSRは2028年に向けてノンアルコールワインが年率+7%で成長すると予測しており、上位5市場での「ペアリング提案の対象」としての地位が確立されつつある。


日本では、ワインをメニューに持つ飲食店やホテルがノンアルコールワインを「格下の代替品」として1種類だけ置くか、「選べる選択肢」として設計するかで、アプローチできる客層が変わる。


ワイン文化が浸透している市場ほど、ノンアルコールワインのポテンシャルが高い——という世界の傾向は、日本の業態設計にとっても参照すべき地図になる。


参考資料

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