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ノンアルコールビールが、世界第2位のビールカテゴリーになろうとしている

ビールの歴史は長い。ラガー、エール、スタウト——数百年をかけて積み上げられてきたカテゴリーの序列が、いま静かに塗り替えられようとしている。


IWSR(飲料アルコール市場の国際調査機関)が2025年5月に発表したデータによると、2024年にノンアルコールビールの世界販売量は前年比+9%を記録した。アルコールビール全体の販売量が同年-1%で落ちたのとは対照的な動きだ。


この成長を受けてIWSRは、2025年中にノンアルコールビールがエール(上面発酵ビール)を抜き、ラガーに次ぐ世界第2位のビールカテゴリーになると予測している。


ノンアルコールビールが、世界第2位のビールカテゴリーになろうとしている

なぜここまで伸びたのか

IWSRのノンアルコール部門責任者、スージー・ゴールドスピンク氏は、ノンアルビール躍進の要因を3点に整理している。良質な商品の増加、流通の拡大、そして大規模なマーケティングだ。


この3点は、数年前まで課題だったものでもある。「ノンアルはまずい」という認識、スーパーやバーでの選択肢の少なさ、そして「飲めない人が仕方なく選ぶもの」というイメージ。それらが順番に解消されてきた。


品質面では、一度ビールを醸造してからアルコールだけを取り除く「脱アルコール製法」の普及が大きい。


従来のノンアルビールは麦汁を発酵させないまま仕上げていたため、本来のビール特有の複雑な風味を再現しにくかった。


脱アルコール製法はその問題を根本から解決するもので、ハイネケン0.0(真空蒸留)、ギネス0.0(コールドフィルトレーション)といったグローバルブランドが相次いで採用したことで、品質への信頼が業界全体で底上げされた。


流通面では、大手ブランドの参入が棚を変えた。スーパーのビールコーナーにノンアルの選択肢が並ぶことが当たり前になり、バーやレストランでもタップに加わるようになった。「存在すること」がカテゴリーの正当性を高める——この効果は、数字に表れにくいが大きい。


消費者側の変化としては、若年層の飲酒行動がある。IWSRのデータでは、ミレニアル世代がノンアル飲料の購入者のなかで最大の層を占め、Z世代は同年齢の過去世代と比べてアルコール摂取量が少ない傾向にある。


「ソーバーキュリアス(飲めるけど飲まないことを選ぶ)」という言葉で表現されるこの行動変容は、ノンアルビールの需要を構造的に支えている。

「第2位」の意味——ただし、まだシェア2%

この予測を過大評価しないためにも、数字の文脈を確認しておく必要がある。


世界のビール市場において、ラガーは92%のシェアを持つ。エールとノンアルビールはそれぞれ約2%で、そのわずかな差でエールを抜くというのが今回の予測だ。


第2位という順位自体よりも、「かつてゼロに等しかったカテゴリーがここまで来た」という変化の速度のほうが、実態に即した読み方だろう。


IWSRは2025年のノンアルコール飲料全体の成長を+9%と見込んでおり、2024〜2029年の期間でノンアルビールは年平均+8%の成長を予測している。エールが同期間に年平均-2%で縮小していくと見られることを考えると、この2つのカテゴリーの差は今後さらに広がる見通しだ。

飲食店・バーへの含意

この変化は、飲食業にとって何を意味するか。


ひとつは、ノンアルビールを「代替品として一種類置く」という発想の限界だ。


消費者がハイネケン0.0とギネス0.0を飲み分けるようになった市場で、飲食店がノンアル枠を一種類しか持たないとすれば、それはアルコールビールで「とりあえず1種類だけ」と言っているのと同じになる。


もうひとつは、タップでの提供の可能性だ。欧州を中心に、バーのタップにノンアルビールを加える動きが広がっている。瓶・缶での提供と異なり、タップは「ここにある、当然の選択肢として」という文脈を自然につくる。日本の飲食店でもこの発想が広がるかどうかは、今後の注目点のひとつだ。


ノンアルビールが世界第2位のビールカテゴリーになるかどうかは、2025年の通年データが出る2026年春頃に確定する。ただその結果がどうであれ、この10年で起きた変化の方向は揺るがない。飲めるのに飲まないことを選ぶ人が増え、その選択を受け止める品質が整い、棚とタップに選択肢が並んだ。数字はその結果にすぎない。


参考資料

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