「仕方なく」から「飲みたい」からへ——日本のノンアルコール市場、4年で何が変わったか
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2025年9月25日、ニューヨークの国連本部で一つの会合が開かれた。
第4回NCDs(非感染性疾患)とメンタルヘルスに関する国連ハイレベル会合。心臓病やがん、糖尿病など生活習慣病の予防と管理について、各国首脳が2030年に向けた新たな政治宣言を採択する場だ。そこでアルコールは、タバコや不健康な食事と並ぶ「主要な修正可能なリスク因子」として明記された。
世界は静かに、しかし確実に、アルコールを取り巻く視線を変えている。日本でも同じことが起きている。ただし日本の場合、その変化は規制や警告からではなく、市場と消費者の側から動き始めた。

数字から見る4年間
2024年、日本のノンアルコール飲料市場は約4,580万ケースに達した。前年比111%、10年前の1.6倍。サントリーの推計では、2030年には5,600万ケース規模になると見込む。
この市場を牽引してきたのは、サントリー、キリン、アサヒといった国内大手の存在だ。彼らは今、そのノンアルを「代替品」ではなく「もう一つの主戦場」と位置づけ始めた。
メーカーが本気になった
変化を象徴するのが2025年秋の動きだ。
アサヒの「アサヒ ゼロ」躍進の原動力となった脱アルコール製法を、キリンビールとサントリーが2025年秋に相次いで採用した。
キリンは数十億円規模の設備投資を行い、4年の開発期間を経て「ラガーゼロ」を投入。発酵・貯蔵まで行った後に脱アルコールする独自製法で、「ノンアルと言われなければ気が付かない」という評価も得た。
キリンの2026年の事業方針では、ノンアルコール飲料でプラス38%という大幅増が目標として掲げられた。これほどの数字がビール大手の事業計画に並ぶのは、これまでなかったことだ。
サントリーも動いた。2025年、「ノンアル部」を新設し、マーケティング費用として前年比約1.3倍にあたる約50億円を投資した。
単なる商品ラインナップの拡充ではない。ノンアルコール飲料を"アルコール0.00%のお酒"として位置づけ直す、カテゴリーの再定義を宣言した動きだ。
転換点:「代替品」から「選ぶもの」へ
市場が伸び続けたこと自体は驚かない。驚くのは、なぜ飲むかが変わったことだ。
コロナ禍の初期、ノンアルコール飲料を選ぶ理由の筆頭は「車を運転するから」だった。「本当はお酒を飲みたいが、飲めない事情がある」という文脈での消費が中心で、ノンアルコールはあくまで「アルコールが飲めないときの代わり」だった。
それが、サントリーの2025年レポートでは様相が変わっている。月1日以上ノンアルコール飲料を飲む人に理由を聞くと、「健康に気をつけたいから」(24.8%)と「飲みやすいから」(24.5%)が上位2位を占め、「車を運転したいから」(15.8%)は相対的に低い位置に下がった。さらに同レポートでは、約7割が「何かの代わりではなく、積極的に選んでいる」と回答している。
「飲めないから選ぶ」から「飲みたいから選ぶ」への移行は、商品カテゴリーの立ち位置そのものが変わったことを意味する。
品揃えの変化が、意識を変えた
消費者の意識が変わったのか、商品が変わったのか。おそらくその両方が、互いを引き寄せながら動いてきた。
かつてのノンアルコール市場はビールテイストがほぼすべてを占め、他のカテゴリーはごく限られた存在だった。
選択肢がなければ、「その日の気分で選ぶ」ことはできない。
しかしここ数年で、ワインテイスト、チューハイ・カクテルテイスト、ハイボールテイストへと多様化が進んだ。選ぶ楽しさが生まれたことで、ノンアルコールは「制約の産物」から「嗜好品の一つ」へと変わりつつある。
また見逃せないのが、飲用シーンの変化だ。以前は「夕食時に家で一人飲む」シーンが中心だった。今や「友人・知人との集まりや飲み会の席」での飲用が増え、若年層を中心に外でも積極的に選ぶ姿が見えてきた。サントリーの調査では、飲食店でのノンアルコール飲料の機会が増えてほしいと考える人が7割を超えている。
世界と日本の「空気」が変わっている
冒頭の国連会合に戻ろう。宣言の文言は産業界の圧力もあって当初より弱められたとされるが、アルコールが年間260万人の死と関連するリスク因子として国連レベルで明記されたことの意味は重い。
個人の選択を責めたり禁じたりする方向ではなく、「飲まない選択肢が自然に存在する環境を整える」という方向への流れは、日本の大手メーカーの動きとも重なっている。各社に共通するのは、飲酒を一律に制限するのではなく、ノンアルコール飲料を含めた「共に楽しめる環境」を整えようとしている点だ。
まだ1%の市場
4,580万ケースという数字は大きく聞こえるが、ノンアルコール飲料は国内酒類市場全体のまだ約1%に過ぎない。
裏を返せば、99%の伸びしろがある。メーカーが数十億円を投じて開発した脱アルコール技術、国連レベルで変わりつつある「お酒との付き合い方」をめぐる議論、そして「仕方なく飲む」から「飲みたいから飲む」へと変わった消費者の意識——この三つが重なるタイミングが、今だ。
ノンアルコール市場の4年間の変化は、単なる数字の話ではない。飲料文化そのものが、ゆっくりと、しかし確実に変わっている。
参考資料




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