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ノンアルコールメニューを増やしても売れない。その理由は?

ノンアルコール飲料の導入を検討している、あるいはすでに導入したが期待ほど売れていない——そんな声を飲食店から聞くことがある。


メニューの品揃えや価格設定の問題だと考えがちだが、多くの場合、根本的な原因は別のところにある。スタッフが自信を持って勧めていないのだ。


ノンアルコールメニューを増やしても売れない。その理由は?
「メニューにある」と「売れる」は別の話

NIQの2025年Global Bartender Reportによると、飲み物を迷っているゲストの72%がスタッフに相談する。そしてバーテンダーの5人に4人が、毎シフト特定の飲み物をゲストに提案していると回答している。つまりスタッフの一言が、注文の分岐点になっている。


ノンアルコール飲料においてこの構造は特に重要だ。アルコールカクテルであれば、ゲストはメニューを見て自分で選べる。しかしノンアルコールへの親しみが薄いゲストにとって、スタッフの説明や推薦が背中を押す唯一のきっかけになることが多い。


逆に言えば、スタッフが積極的に勧めない限り、ノンアルコールメニューはメニュー上に存在しているだけで、ゲストの体験には入ってこない。

スタッフの前に立ちはだかる2つの障壁

ノンアルコール飲料の普及に詳しいコンサルタントで、Mindful Mixologyの著者でもあるDerek Brownは、ノンアルコールに取組むうえでの店舗側・スタッフ側が抱える障壁を「SAVE」というフレームワークで整理している。


Stigma(偏見)、Availability(入手性)、Value(価値の認識)、Embarrassment(気まずさ)の4つだ。このうち、スタッフの行動に直結するのは「偏見」と「気まずさ」の2つだ。


  • 偏見(Stigma):「飲めない人向け」という思い込み

ノンアルコール飲料を「お酒を飲めない人向けの代替品」として捉えていると、スタッフはそれをすべてのゲストに自然に勧めることができない。


しかし実態は異なる。Adult Non-Alcoholic Beverage Association(ANBA)のデータによると、ノンアルコール飲料を購入する人の94%は普段アルコールも飲む。つまりノンアルコールを選ぶのは「飲めない人」ではなく、「その場でそう選んだ人」なのだ。この認識のズレが、スタッフの勧め方を無意識に狭めている。


  • 気まずさ(Embarrassment):言葉が期待値を下げる

スタッフが使う言葉が、ゲストの体験を左右する。Brownはかつて、"mocktail"という言葉が消費者に「甘ったるくて手抜きの飲み物」というイメージを与えかねないと指摘していた。


「モクテルですが」という一言が、意図せず「本物ではないもの」というニュアンスを伝えてしまう。言葉の選び方が、ゲストの受け取り方を変える。


「バーテンダーだけ教えればいい」という思い込み

トレーニングの設計においても、見落とされがちな盲点がある。飲み物のトレーニングはバーテンダーを対象に行われることが多いが、飲食の場でより多くのゲストに接するのはフロアスタッフだ。


Bar Methodsの共同創業者Christopher Bidmeadはこの点をはっきり指摘している。「バーテンダーはカクテルリストを熟知しているのに、フロアスタッフが何も知らないというのは言い訳のできないことだ。飲食の場でゲストに最も多く接しているのはフロアスタッフなのだから」。


Derek Brownも同様の観点から、スタッフ教育がビジネスの収益に直結すると強調している。「そのメニューが誰にも伝わらず、スタッフも教育されていなければ、あなたはある人のニーズを満たす機会と、そこから得られる収益の両方を失っている」。


Food & Beverage Magazineの2026年1月号がまとめた調査でも、ノンアルコール飲料で高い収益を上げている店舗の共通点として、「スタッフへのペアリング研修」と「アルコール飲料と同等のプレゼンテーション基準」が挙げられている。メニューの充実度よりも、提供する側の教育水準が収益の差を生んでいる。

今日から始められること

New York State Restaurant Associationは2024年のカンファレンスでノンアルコールプログラムの導入をテーマとして取り上げ、成功の要素として「inclusive language(排除しない言葉遣い)」「staff training(スタッフ研修)」「guest-centric thinking(ゲスト起点の思考)」の3点を挙げた。


これを実務に落とし込むと、最初の一歩は意外とシンプルだ。


まず、ノンアルコール飲料をスタッフ全員で試飲する機会を作る。アルコール飲料と同じように、フレーバー、香り、食事との相性を言葉にする練習をする。知識は体験から生まれる。


次に、「誰でも注文していい飲み物」として扱う言葉に統一する。「お酒が飲めない方には」という案内ではなく、「今日のおすすめの一杯として」という切り口で紹介できるよう、フレーズを整えておく。


そして、フロアスタッフをトレーニングの対象に含める。バーテンダーだけでなく、すべての接客スタッフがノンアルコール飲料について最低限の説明ができる状態を目指す。

メニューに載せることは出発点に過ぎない。それをゲストの手元まで届けるのは、スタッフの言葉と自信だ。


参考資料


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