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アルコールを生まない発酵






ノンアルコールワインの製造方法』や『ノンアルコールビールの製造方法』を見てきて、発酵しているのにアルコール生成が起きないということがしばしばあった。


もちろん、乳酸発酵などアルコールを生成しない発酵が存在しているのは、知ってはいるが、同じ果汁を同じように発酵させて一方はアルコールになり、もう一方はノンアルコールができあがるというのは、なんとなく不思議な感じがする。


今回は、その原因の一端である、アルコール耐性と多糖類の分解について見ていく。


アルコール耐性とは

アルコール消毒などからもわかるように、アルコールには高い殺菌作用があり、この殺菌力はアルコールを生み出す酵母といえども無関係ではいられない。


これは、醸造酒などを考えるとわかりやすい。


ビールやワイン、日本酒などの醸造酒のアルコール度数は5度~20度くらいのもので、蒸留酒なみの40度近い醸造酒というのは存在しない。


これは、グルコースなどの糖分量も関係しているが、アルコール度数が20度前後になると、酵母の働きが緩慢になり、酵母自身が最終的に死滅してしまうからである。


糖分を無限に与えれば、無限にアルコール度数が高くなるわけではないというのは、直観的にわかるだろう。


なぜならこれは極論してしまうと、甘口ワインなどは、全てアルコール度数の高い辛口ワインになりうるということになってしまうからである(もちろんそんなことはない)。


このように、一定量のアルコールの殺菌力に耐える能力をアルコール/エタノール耐性という。


アルコール耐性の弱い酵母

ワインや日本酒の発酵に使われる酵母ですら、一定以上のアルコール度数には耐えられないので、アルコール耐性のより弱い酵母が他に存在していたとしてもおどろきはないだろう。


アルコール耐性の低い酵母を使えば、発酵を起こしながらも少量のアルコールで酵母が死滅してしまうため、その時点でアルコール生成は止まりノンアルコール(1%未満)の飲料が生成可能となる。


たとえば、ワインの醸造にも使われるToluraspora delbrueckiiという酵母のうちの一種には、5%のアルコール濃度でも成長できなくなってしまう程、アルコール耐性の弱いものも存在する。


多糖類の分解

もう一方の、アルコールを生まない発酵のキーワードが多糖類の分解である。


そもそもアルコール発酵とは以下のような化学式で表される。


  • C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2


これはグルコースなどの単糖類が、酵母の働きにより、酵素を作り出し酸素のない状況下で呼吸(代謝)し、エネルギーを生み出す過程でエタノールと二酸化炭素が発生する反応式である。


単糖類については多くの酵素で発酵が可能であるが、単糖類が繋がってできた多糖類をもとにアルコール発酵できる酵素をもつ酵母は限られてくる。


これは、単糖類同士の繋がりを一度切断し、それぞれの単糖類をもとにアルコール発酵する必要があるからだ。


ノンアルコールビールの製造方法』でも見た、Saccharomycodes ludwigii は、多糖類であり麦汁に多く含まれるマルトースを分解するマルターゼという酵素を持たないため、マルトースからグルコースを取り出すことができず、アルコール発酵をすることができない。


このため、Saccharomycodes ludwigiiを使った麦汁の発酵は1%未満のアルコール度数しか生成しえない。



アルコールを生成しない発酵として、他にも熱に対する耐性など見ていくべきポイントはまだ存在するのかもしれないが、今回はまずこの二点にとどめておく。


参照サイト

"Trends in Non-alcoholic Beverages" Charis M. Galanakis

"Nonconventional Yeasts and Bacteria"


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