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ノンアルコールとは?——大手はどう答えるか

「ノンアルコール飲料」という言葉は広く使われているが、その定義は意外なほど揺れている。


アルコールが「ない」という事実は共通しているが、それが「何であるか」については、メーカーによって答えが大きく異なる。


世界の大手飲料メーカー6社のノンアルコールへのアプローチを並べてみると、単なるマーケティング用語の差を超えた、カテゴリーへの根本的な発想の違いが見えてくる。

ノンアルコールとは?——大手はどう答えるか
サントリー ——「0.00%のお酒」

6社の中で最も明確な定義を持つのがサントリーだ。


2025年2月に発表した活動方針の中で、サントリーはノンアルコール飲料を「アルコール0.00%のお酒」と明示している。


「ノンアルコール飲料を通じて、お酒がもつ価値や魅力を伝えていくことで、酒類文化の伝承に取り組む」という表現からも、ノンアルコールをあくまで「お酒の世界の一員」として位置づけていることが分かる。


この発想はALL-FREEのコンセプト"Say YES to NO"にも表れている。「ゼロにYESと言う」——飲まないことへの肯定ではなく、ゼロという選択肢そのものに積極的な価値を見出す姿勢だ。


2025年には「ノンアル部」を新設し、ビール・スピリッツ・ワインの各本部に分散していたノンアルコール事業を一本化。マーケティング費用を前年比約1.3倍の約50億円に増額し、市場のけん引役を目指している。

アサヒ ——「スマートドリンキング」

アサヒのアプローチはサントリーとは対照的だ。


アサヒが掲げるのは「スマートドリンキング(スマドリ)」——「飲む人も飲まない人も、体質や気分に合わせた自由な飲み方を楽しめる社会の実現」というコンセプトだ。


ノンアルコールを「お酒の代替品」としてではなく、「誰もが自分らしく楽しめる選択肢」として位置づけている。


2025年の戦略テーマとして「ノンアルコールのポジティブイメージを醸成する」を掲げ、「ノンアルって誰のもの?」というキャッチフレーズで、お酒を飲む・飲まないという枠を超えたコミュニケーションを展開している。


またアサヒグループホールディングスは統合報告書で「BAC(Beer Adjacent Category)戦略」を今後の成長の鍵として特集している。


ノンアルコール飲料・RTD・成人向け清涼飲料などを「ビール隣接カテゴリー」として横断的に設計する発想は、ノンアルコールをビールの周辺に置きながらも、独自の文脈で育てようとするものだ。

AB InBev —— "Balanced Choices"

世界最大のビールメーカーAB InBevは、ノンアルコールを「Balanced Choices(バランスの取れた選択肢)」というポートフォリオの中に位置づけている。


低カロリー・無糖・グルテンフリー・ノンアルコール——これらを「健康意識の高い消費者のための選択肢群」としてまとめて扱う発想だ。


FY2025の年次報告書では「Balanced Choicesポートフォリオが8.9%の収益増」と報告されており、ノンアルコールはその中の一軸として機能している。


ノンアルコールを「飲まない人のため」ではなく「より多くの消費者の、より多くの場面に応えるための選択肢」として位置づけるAB InBevにとって、ノンアルコールはアルコール飲料と同じポートフォリオの中に並列して存在している。

Heineken —— "Always a Choice"

Heinekenのノンアルコールへのアプローチは、他社と一線を画す点がある。


2017年にHeineken 0.0を発売した際、同社は「ノンアルコールをビールと同等の選択肢として社会に定着させる」という明確な使命を掲げた。


"0.0 Reasons Needed(理由なんていらない)"というキャンペーンは、「飲まない理由を説明しなくていい」という社会的スティグマの解消を目指すものだ。


"Always a Choice"原則——Heineken Originalが置かれている場所には必ずHeineken 0.0も置く——という方針もこの姿勢を体現している。


欧州では6割以上の提供場所でノンアルコール版が並んで置かれている。FY2025時点でHeineken 0.0はグローバルNo.1ノンアルコールビールブランドとして117市場に展開されており、2020年から2024年の間に販売量が53%増加した。

Carlsberg —— "Beyond Beer"

Carlsbergの戦略で最も特徴的なのは、"Beyond Beer"の定義の広げ方だ。


他社がBeyond Beerという言葉をRTDやハードセルツァーなどアルコール飲料のビール隣接カテゴリーに使うのに対し、Carlsbergは2025年1月の英国大手ソフトドリンクメーカーBritvic買収により、ノンアルコール飲料やソフトドリンクまでをBeyond Beerに含める形で定義を広げた。


Carlsbergのノンアルコールビール(Carlsberg 0.0など)はポートフォリオの約3%にすぎない。


しかし2025年1月のBritvic買収により、Carlsbergは英国最大のソフトドリンクメーカーを傘下に収めた。ノンアルコールビールという「ビールの0.0版」の枠を超え、そもそもアルコールを含まない飲料全体を自社ポートフォリオに組み込むという、他社にはない発想だ。

Diageo —— "Moderation"

スピリッツ最大手Diageoのノンアルコールへのアプローチはビールメーカーとは異なる。


Diageoが掲げるのは"drink better, not more(量より質)" ——モデレーション(節度ある飲酒)という概念だ。


ノンアルコールはこの文脈の中に位置づけられており、Guinness 0.0・Tanqueray 0.0・Gordon's 0.0など、既存のアルコールブランドの「0.0版」として展開している。


FY2025の年次報告書では「世界最大のノンアルコールスピリッツプレーヤー、最も近い競合の4倍以上の規模」と明記。ノンアルコール部門は前年比40%の有機成長を記録している。


DiageoのアプローチはSeedlipへの投資にも表れている。


2016年にDiageoのベンチャー部門Distill Venturesを通じて投資を開始し、2019年に買収。


アルコールブランドの0.0版だけでなく、ゼロから設計されたNAスピリッツブランドも持つことで、モデレーションという軸を幅広くカバーしている。

6社の定義から見えること

6社の言葉を並べると、ノンアルコールへの発想に大きく二つの軸が見えてくる。


一つは「お酒の文脈で語る」軸だ。


サントリーの「0.00%のお酒」、Heinekenの「ビールと同等の選択肢」、Diageoのブランドをそのままノンアルコールにスライドさせるアプローチ——これらはノンアルコールをアルコール飲料の延長線上に置きながら、「飲む体験の質」を維持しようとする発想だ。


もう一つは「飲み方の選択肢を広げる」軸だ。


アサヒの「スマドリ」、AB InBevの「Balanced Choices」、Carlsbergのソフトドリンクまで含む展開——これらはノンアルコールを「飲まない人のもの」ではなく「どんな場面でも選べるもの」として設計しようとする。


ただしこの二つの軸は排他的ではなく、各社のアプローチはグラデーションを持っている。


「ノンアルコールとは何か」——この問いへの答えは、まだ収束していない。

各社の定義の違いは、このカテゴリーがいかに流動的な状態にあるかを示している。

参考資料

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