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ホップの苦みはホップの中にない——ノンアルコールビールが「味が薄い」と言われる理由

ノンアルコールビールを飲んだとき、「なんとなく苦みが物足りない」「味が薄い気がする」と感じたことはないだろうか。


これは気のせいでも、製品の品質の問題でもない。ホップの苦みとアルコールの関係に、科学的な理由がある。

ホップの苦みはホップの中にない——ノンアルコールビールが「味が薄い」と言われる理由
ホップの苦みは、ホップの中にない

逆説的に聞こえるが、ホップに含まれるアルファ酸(フムロン)はそのままでは水に溶けない。つまりホップを加えるだけでは、苦みはビールに移らない。


アルファ酸は醸造過程の煮沸によって熱異性化され、イソアルファ酸(イソフムロン)という別の化合物に変わる。この変換が起きて初めて、苦みが液体に溶け込む。煮沸時間が長いほど変換が進み、苦みが強くなる——ただし変換効率は最大でも30%程度にとどまる。


つまりホップの苦みは、ホップという植物の中にあるのではなく、醸造プロセスという「変換」によって生まれる。

苦みの知覚にはアルコールが関与している

ノンアルコールビールが「苦みが物足りない」と感じられる理由は、ここから来ている。


2018年の研究では、ビールの苦みの強度はイソフムロン・フムリノン(酸化ホップ酸)・エタノール濃度の3つの組み合わせで決まることが確認されている。


アルコールそのものが苦みの知覚に作用しているのだ。


同じIBU値(国際苦味単位)のビールとノンアルコールビールを比較すると、アルコールがない分だけ苦みが弱く感じられる。


IBUはイソアルファ酸の濃度を測る指標であり、アルコールの有無は考慮されていない。


ビール業界で広く使われる標準指標だが、ノンアルコールビールに対しては「知覚との乖離が生じやすい」という限界がある。


ホップの種類による味わいの違い

ホップは品種によって香り・苦みの性質・フレーバーが大きく異なる。大きく4つの系統に分けられる。


  • アメリカン系——柑橘・トロピカル・松脂

品種

特徴

Cascade

グレープフルーツ・フローラル・スパイシー。アメリカンIPAの定番

Citra

ライム・マンゴー・パッションフルーツ。強烈なシトラス感

Mosaic

ブルーベリー・マンゴー・柑橘・松脂。複雑な多面的フレーバー

Simcoe

松脂・アース・ベリー。力強い苦みと香り

Amarillo

オレンジ・フローラル・トロピカル。柔らかい柑橘感

  • ヨーロピアン系(ノーブルホップ)——繊細・ハーブ・スパイス

品種

特徴

Saaz

アーシー・ハーブ・スパイシー。チェコピルスナーの象徴。低苦味

Hallertau

フローラル・ハーブ・アーシー。ドイツラガーの定番。穏やかな苦み

Tettnang

マイルドでスパイシー。フローラルのニュアンス

  • イギリス系——アーシー・ウッディ・フローラル

品種

特徴

Fuggle

アーシー・ウッディ・ミント。英国エールの古典的な苦み

East Kent Goldings

ハーブ・フローラル・ペッパー。伝統的な英国エールの骨格

  • 南半球系——トロピカル・ワイン・ライム

品種

特徴

Galaxy(オーストラリア)

パッションフルーツ・桃・柑橘。強烈なトロピカル感

Nelson Sauvin(ニュージーランド)

白ワイン・グーズベリー・トロピカルフルーツ。ワイン的な独特の香り

苦みの「強さ」を決めるのはアルファ酸含有量で、Citraは11〜13%、Saazは3〜5%程度と品種によって大きく異なる。


ノーブルホップは苦みが穏やかで繊細なアロマが特徴、アメリカン系は苦みが強くフレーバーインパクトが大きい傾向がある。


ノンアルコールビールの設計への示唆

「苦みが足りない」というノンアルコールビールの課題に対して、醸造家は主に2つの方向からアプローチしている。


  • 苦みを補う

アルコールがない分だけ苦みの知覚が弱くなるため、ホップの投入量を増やすか、より高アルファ酸の品種を選ぶことで苦みの絶対量を底上げするアプローチだ。


CitraやSimcoeのような高アルファ酸品種は、この目的で選ばれやすい。


またゲンチアン(竜胆根)のようなホップ以外の苦味素材を補助的に加える手法も、一部のNAビールやNAスピリッツで試みられている。


  • 香りで飲み口を補う

コールドホッピング(ドライホッピング)は苦みを加える手法ではなく、煮沸で揮発しやすいアロマ成分を保持する手法だ。


熱を加えないためアルファ酸の変換は起きず、苦みはほぼ生まれない。


代わりにテルペン類をはじめとするアロマ成分が揮発せずに残り、香りのインパクトが増す。苦みが弱くなりやすいノンアルコールビールに対して、香りで飲み口の満足感を補う発想として有効だ。


「苦みを増やす」か「香りで補う」か——どちらを優先するかは、目指すビールスタイルによって変わる。


ノンアルコールビールの設計においてホップの役割は、アルコールビールとは根本的に異なる問いを突きつける。

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