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「モクテル」という言葉を、世界のバーテンダーは嫌っている——ノンアルコールカクテルの命名をめぐる論争

更新日:4月15日

日本のメニューでは当たり前のように使われている「モクテル」という言葉が、海外のバーテンダーの間では長年にわたって議論の的になっている。


嫌われている理由は、語源にある。"Mocktail"は"Mock"(模倣する、馬鹿にする)と"Cocktail"を組み合わせた造語だ。


Merriam-Webster辞典によれば初出は1916年。"Mock"という言葉には「偽物」「嘲笑」というニュアンスが内包されており、丁寧に作られたノンアルコール飲料を指す言葉としては相応しくない——そう感じるバーテンダーが世界中で声を上げている。

「モクテル」という言葉を、世界のバーテンダーは嫌っている——ノンアルコールカクテルの命名をめぐる論争
「モクテルという言葉は中学校の文化祭向け」

ニューヨークのレストラン・ililiのベバレッジディレクターChris Struckはこう言い切った。


「モクテルという言葉は、中学校の文化祭で出てくるようなシャーリーテンプル的な飲み物に取っておけばいい」


同レストランでは開業当初から"Soft Cocktail(ソフトカクテル)"という言葉を採用し、スタッフへの教育も徹底しているという。


シカゴのバー、The DearbornのベバレッジディレクターSarah Clarkはこう語る。


「モクテルには多くのネガティブな含意がある。何かを"mock"するというのは決してポジティブな表現ではない」


彼女が好む表現は"Non-alcoholic craft beverage(ノンアルコールクラフトビバレッジ)"。

現場で使われている代替表現

では実際に何と呼ばれているのか。現場で使われている主な代替表現を整理すると以下の通りだ。


  • Zero-proof/ゼロプルーフ:最も広く浸透している代替表現。「アルコール度数ゼロ」という意味で、業界内での認知度が高い。HuffPostの取材に応じた多くのバーテンダーが好んで使う表現で、書籍のタイトルにもなっている(Elva Ramirez著 "Zero Proof")。

  • Soft cocktail/ソフトカクテル:フランス語圏で浸透している表現で、「アルコールの入っていないカクテル」という意味合いを持つ。日本語の「ソフトドリンク」と同じ発想だ。

  • Spiritfree/スピリットフリー:ミシュラン二つ星レストランOrioleのバーテンダー、Julia Momoseが提唱した造語。「多様でユニークなノンアルコール素材で作られた刺激的な飲み物」と定義し、辞書に載せることを目標にマニフェストを発表した。

  • Sans Alcohol/サン・アルコール:フランス語で「アルコールなし」。一部の高級レストランがメニュー名称として採用している。

「モクテル」を擁護する声も

一方で、モクテルという言葉を積極的に擁護する立場もある。


Punch Drinkは「言葉は私たちが決める意味を持つ。『モクテル』が良い意味を持つと決めればいい」と主張する。


実用的な観点から見れば、「モクテル」は2音節で誰にでも伝わる。"Zero-proof"や"Spirit-free"は業界用語としての認知度はあるが、一般消費者には説明が必要になる場合もある。


フィラデルフィアのUrban Farmerのバーマネージャー、Daniel Watsonは「モクテルは親しみやすく、論争を呼ばない言葉だ。お客さんはABVやプルーフの意味を必ずしも知っているわけではない」と言う。

言葉がブランドを作る

この論争は単なる語感の問題ではない。


飲食店がノンアルコール飲料を何と呼ぶかは、そのカテゴリーをどう位置づけるかの宣言でもある。


「モクテル」という言葉を使い続けることは、「これはカクテルの代替品です」というメッセージを発し続けることだ。


一方で"Zero-proof cocktail"や"Soft cocktail"という言葉を使うことは、「これはカクテルと同じ棚に並ぶ、別の選択肢です」というメッセージになりうる。


Destination Unknown Restaurantsのベバレッジディレクター、James Simpsonはこう語る。


「『モクテル』という言葉は、何かの劣化版というイメージを伝えてしまう。ノンアルコール飲料をカクテルメニューと同じ欄に並べるようになってから、そのイメージが変わってきた」


日本では「モクテル」という言葉がまだ比較的新しく、ネガティブな含意が定着する前に別の表現を根付かせるチャンスがあるかもしれない。


メニューに何と書くかを一度、立ち止まって考えてみる価値はある。


参考資料

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