「とりあえずビール」は、もう呪文じゃない——飲食店が知っておくべき、飲み会文化の地殻変動
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- 5 日前
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長年、日本の飲食店は「とりあえずビール」を起点に夜を設計してきた。
全員が同じ飲み物を手にすることで場が始まり、そこからお酒の追加注文が続く。ドリンクメニューはその前提で組まれ、スタッフの動き方もそれに合わせて設計されてきた。
だがいま、その前提が静かにほつれ始めている。

飲み会の「場」が縮んでいる
まず起きているのは、飲み会という場そのものの変化だ。東京商工リサーチの2025年の調査によると、忘年会・新年会を開いた企業は57.2%にとどまり、コロナ前(78.4%)と比べて20ポイント以上減少している。コロナ対策がほぼ終わった現在も、職場の飲み会は完全には戻っていない。
「抵抗感を示す従業員が増えた」「需要が多くない」という理由が報告されており、これは単なるコロナの後遺症ではなく、働き方や価値観の変化を反映したものだと見られている。
残業規制の強化、タイムパフォーマンス重視のZ世代の台頭、プライベートの時間を優先する意識の高まり——こうした背景が、職場単位の飲み会を「当然のもの」ではなくしている。
飲食店にとってこれは客数の問題でもあるが、同時に別の変化の入り口でもある。
来店する客の「飲み方」そのものが変わっているからだ。
「飲まない選択」への抵抗感が過半数を割った
キリンが2024年に実施した調査(グリーンズフリージャーナル調査)では、飲み会でノンアルコール飲料を選ぶことを「問題だと思う」と答えた人は23.8%だった。 つまり飲食店の現場でノンアルを頼んだとき、それを気にする人は4人に1人を切っている計算になる。過半数はむしろ肯定的で、残る約2割は特に意見を持たない。「とりあえずビール」が暗黙の選択肢だった時代の空気は、数字の上ではすでに変わっている。
この数字は、飲食店の現場では大きな意味を持つ。
かつて「ノンアルを頼む客は場の空気を乱す存在」という暗黙の前提があった。いまは、テーブルの半分以上の人が「ノンアルを選んでいる人がいても自然だ」と思っている。その前提でドリンクメニューを設計しているかどうかが、問われるようになっている。
ただし、NG派はまだ約2割残っている。「完全に自由になった」わけではない。だからこそ求められるのは、ノンアルコールを「特別扱いせず、でも確実に選べる」設計——主張しすぎず、でも埋もれさせない置き方だ。
「仕方なく頼む客」から「選びたくて頼む客」へ
飲食店にとって最も重要な変化は、ここにある。
キリンが2024年に実施した同調査では、ノンアルコール飲料を飲む理由として最も多かった回答は「リフレッシュ・気分転換したいから」(33.9%)だった。「クルマを運転する必要があるから」「翌日の予定に支障が出ることを避けるため」といった消極的な理由を、ポジティブな動機が上回った。
イメージとして最も多く選ばれたのも「食事を楽しむために飲むもの」(40.9%)で、「お酒の代わりにやむを得ず飲むもの」を大きく超えた。ノンアルコール飲料は「飲めない人が仕方なく選ぶもの」という文脈から、「飲む場の体験を豊かにするもの」へと、受け取られ方が変わってきている。
「飲めないから頼む客」と「飲みたくて頼む客」では、スタッフの対応もメニューの見せ方も変わる。後者は品質と体験に対してお金を払う意思がある。ノンアルコールは「低単価で場をつなぐカテゴリー」ではなく、「単価を設計できるカテゴリー」になりつつある。
問いは「ノンアルを置くか」ではなく「どう置くか」に移っている
メニューの端にひとつだけ並べるのか、アルコールと対等な選択肢として設計するのか。
「ノンアルコールコーナー」として切り分けるのか、度数や飲み方の幅としてひとつの連続したメニューに組み込むのか。その設計の差が、誰を呼び込めるかを決める。
「全員が同じを飲む」から「全員が選べる」へ。
この再設計は、飲み会文化の終わりではない。飲食店が新しい客層の選択を受け止め、ドリンクの単価と体験の質を同時に上げていくための、次のステップだ。
参考資料



