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執筆者の写真alt-alc,ltd.

温度と味覚の関係性






温度というのは、料理や飲料において非常に大事な要素でありながら、実はあまり研究の進んでいない分野でもある。


日本酒であれば、冷酒、ぬる燗、熱燗、お茶であれば水出しなのかお湯で出すのか。


そこまでの温度差ではないにしても、ワインなど数度の温度の違いで驚くほど表情が変わるということもある。


火と熱の発見

温かいご飯というのは、地球上ではまだまだ新しい概念だ。


火が発見されるまでは、人類といえど他の動物と同じように生の食材を食べる必要があった。二百万年前に、火を発見してようやく、人間は温かいご飯にありつけるようになる。


火を発見し、食材を調理することができるようになり、人類はこれまで生の食材を食べていたことで膨大な時間を要した咀嚼や消火から解放されることとなった。


火の活用は、このような余剰エネルギーと時間を与えてくれただけでなく、さらに人類を病気からも遠ざけてくれるようになった。


そのため、我々も味覚や嗅覚は冷たいものよりも温かいものを好むように進化してきた。


味を感じるとはどういうことか

実際の温度と味覚の関係性を見ていく前に、味を感じるとはどういうことか?

どのようなメカニズムになっているかを簡単に説明したいと思う。


何かを口にした時、食材に含まれる味わい成分が、舌や口蓋の味蕾に存在する味覚受容体に反応する。


味わい成分と味覚受容体の相互作用により、電気信号が生じ、さらにその電気信号は味覚神経を通じて脳に送られる。


そうして脳に送られた電気信号によって味覚が発現することになる。


味わい成分とは、一般的に五味と呼ばれ、甘み、酸味、塩味、うまみ、苦みを指す。


五味はそれぞれの味覚受容体を有しており、逆に言えば味覚受容体が存在しない(あるいは、見つかっていない)味わいは味覚として認められていない。


例えば、数年前の研究で被験者の大多数が脂の味わいを他の味覚と区別して観測できることが実証され第六の味わいになりうると示唆された。


しかし脂味に対する味覚受容体は発見されておらず、そのため脂味は未だに認められていない。


話を戻そう。これら五味は当然人により感じ方が異なり、ごく少量でもその味わいを感じるスーパーテイスターと呼ばれる人から味わいに対して比較的鈍感な人まで様々である。


これは、味わい成分濃度の閾値が人それぞれであるからだ。


そして、温度もこの濃度閾値に影響を与える。ゆえに温度は味覚を考える際に重要な要素となってくる。


温度と味覚の科学

一般に、塩味・苦み・甘み・酸味の濃度閾値と温度の関係はUカーブであらわされる。


冷たすぎたり、熱すぎたりするとそれぞれの味わいを感じるのに、多量の味わい成分を必要とする(=味わいを感じにくい)。


閾値は20度~30度で最も小さくなる(つまり最も味わいがとりやすい)と言われている。


これだけ見れば、とても単純明快に思えるがこの手の研究は被験者の感じ方に頼ったものが多く、そのため文献により言っていることがまちまちになっており、温度と味覚の関係性の一般化はできないともいわれている。


これには、個人の主観という以外に


  • 食材による異なる反応

  • Thermal Taste現象

  • 味わい濃度


という三つの理由が考えられる。


►食材による異なる反応


同じ味わいでも、素材により温度の反応が異なる場合がある。


甘みは、一般的に温度が上昇したときに強まるが、人工甘味料のサッカリンは温度の影響を受けないと言われている。


苦みは、一般的に温度が上昇したときに弱まるが、カフェインやキニーネ由来の苦みは逆に温度上昇に比例して強まると言われている。


►Thermal Taste(熱味覚)現象


温度と味覚の関係性を見出しにくいのには、人口の2~3割の人は、舌の特定の場所を熱したり冷ましたりするだけで、味わいを感じてしまうこと関係している。


これはThermal Taste(熱味覚)と呼ばれる現象で、舌前方を熱することで甘みを、冷やすことで塩味や酸味を感じ、舌の後方を冷やすことで苦みや酸味を感じる人が存在するのである。


►味わい濃度


強い味わいのものは、温度の影響が弱まる。


これは先述の閾値の話を思い出していただけると、わかりやすいかもしれない。

温度が影響を与えるのは味わい濃度の閾値の高低であり、すでに高い濃度のものであれば温度を変えても、感じ方に大差はなくなる。


 

以上、一般化にあたっては様々な問題を抱えていることを理解してもらえたかと思う。


そのうえで、カナダのBrock Universityで74名の被験者を対象に行われた、食ベ物と飲み物の甘み、苦み、酸味、収斂性についての温度変化による味わい強度の違いをはかる実験を紹介したい。


結果は以下のようなものである。


  • 甘み:温度により変化なし(*低い温度の時には味わいが強くなるのに時間がかかる)

  • 苦み:温度上昇に比例して弱まる傾向にある

  • 酸味:温度上昇に比例して強まる傾向にある

  • 収斂性:温度上昇に比例して強まる傾向にある


完璧な実験などないように、この結果にも問題は残っているように思う。

特に、温度による味わい強度の変化なしとされている甘みについてである。


他の文献では、酸味や収斂性と同じように、温度上昇に比例すると言及しているものも多々ある。


卑近な例を考えても、凍らせたソフトクリームと程よく溶けたソフトクリームでは、後者のほうが甘く感じるというのは経験則からわかってもらえるのではなかろうか。


そう考えると、但書きにある、時間の変化で甘みが強くなっていくという記述は口内で食べ物・飲み物の温度が上昇したために甘みの強さが上昇したと捉えるのが適当かもしれない。



もちろん、実際のところは様々な実験が必要だろうが、そのような推測は可能かと思う。


温度をふまえたドリンクの活かし方

上記で見てきたような温度と味覚の関係性をふまえ、ペアリングなどのシーンで熱はどのように活かすことができるだろう。


大きく二つの可能性が考えられる。


  • 温度と味覚をふまえた味わいの調整

  • 熱を活かしたマリアージュ


►温度と味覚をふまえた味わいの調整


文字通り、上記してきた温度と味覚の関係性を考慮して、ドリンクを検討するということである。


特に、ノンアルコールのドリンクはいまだ試行錯誤が続いている状況である。

原材料や抽出、圧搾などとともに提供温度を考慮することで新たな可能性が見えてくるかもしれない。


►熱を活かしたマリアージュ


ティーペアリングに先駆けて取り組んだニューヨークのEleven Madison Parkではお茶とチーズなどのペアリングも取り入れているらしい。


高温のお茶の熱を利用して、ソフト系チーズを溶かしたり、逆にフローズン状態で提供した飲料を温かいスープなどと楽しむことで、温度感の違いの楽しみや、食中の温度変化の楽しみなども考えられるかもしれない。


参考サイト

"Food temperature affects taste, reveal scientists" Beverage daily.com

"Some Foods Taste Different Hot or Cold" LIVE SCIENCE

"Why Does Food Taste Different When It’s Cold Vs. When It’s Hot?"

"Influence of temperature on taste perception" Cellular and Molecular Life Sciences 2007

https://www.researchgate.net/publication/6620550_Influence_of_temperature_on_taste_perception

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