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執筆者の写真alt-alc,ltd.

飲酒とJカーブ、嘘とホント



みなさんはお酒の「Jカーブ」というものを聞いたことはあるだろうか?


「Jカーブ」に聞きなじみがない人でも、「少量のお酒は身体にいい」、「酒は百薬の長」という言葉は聞いたことがあるはずだ。


Jカーブは、そういった少量であればお酒は身体に良いとする論拠として使われてきた研究結果である。


Jカーブとは?

Jカーブとは、まったくお酒を飲まないよりは少量のお酒を日々飲んでいた方が健康リスク(主に高血圧、冠動脈疾患、心筋梗塞、脳卒中、心不全、心房細動などの心血管疾患リスク)が低くなるというもの。


上記のグラフの様に、縦軸に心血管疾患リスクを横軸にアルコール消費量をとった場合、非飲酒時のリスクよりも少量飲酒時のリスクの方が低くなり、その後、飲酒量に比例してリスクが上昇していく形からJカーブと言われる。


Jカーブの問題点

これまでJカーブの問題点として、


  • 飲酒可能な所得水準の方が健康的な生活を送りやすい

  • もともと健康的理由からお酒を飲まない人は非飲酒にカウントされてしまう


などの統計学でいうところの交絡バイアスの可能性が指摘されてきました。


これらのバイアスを取り払うためには、お酒好きな人にお酒をやめてもらう/お酒を飲まない人にお酒を飲んでもらう、そのうえで数年にわたる経過観察を行う必要がありますが、もちろんそのようなことは倫理的にできないため実証には至りませんでした。


Jカーブを覆すアメリカの研究

そのような中、2022年3月に新しい研究がKiran J. Biddinger氏らにより発表されました。


この研究では、3つの段階が踏まれています。


  1. 従来通りの飲酒習慣と心血管疾患リスクの関係をみる

  2. 飲酒習慣と健康習慣の関係をみる

  3. アルコール分解能にかかわる特定の遺伝子を持つ母集団を選定しなおし、心血管疾患リスクの関係をみる


それぞれ説明していきます。


①従来通りの飲酒習慣と心血管疾患リスクの関係をみる


本研究は、371,463人を対象としており、被験者を


非飲酒者:お酒をまったく飲まない人

少量飲酒者:一週間で純アルコール換算117.6g未満のアルコールを摂取する人

中量飲酒者:一週間で純アルコール換算117.6g~215.6g未満のアルコールを摂取する人

多量飲酒者:一週間で純アルコール換算215.6g~343g未満のアルコールを摂取する人

乱用者:一週間で純アルコール換算343g以上のアルコールを摂取する人

*母集団の平均飲酒量は純アルコール換算128.8g/週


そのうえで、それぞれの心血管疾患リスクを確認したところ、やはりJカーブは存在し、非飲酒者よりも少量飲酒者、中量飲酒者の方がリスクが低減することが確認された。


②飲酒習慣と健康習慣の関係をみる


次は、これまでJカーブで問題になっていた交絡バイアスを確認するため、各被験者に


喫煙習慣の有無/BMI/身体活動量/野菜摂取量/赤身肉摂取量/健康状態(自己申告)


について確認したところ、従来の読み通り少量飲酒者/中量飲酒者は非飲酒者よりも健康的であることが確認された。


そのうえで、これらの要素を考慮に入れて、飲酒習慣と心血管疾患リスクの関係を再分析したところ、


中量飲酒者と非飲酒者のリスク差はなくなったものの、少量飲酒者は非飲酒者よりも(先の結果より差は縮まったものの)リスクが低いことが確認されました。


③アルコール分解能にかかわる特定の遺伝子を持つ母集団を選定しなおし、心血管疾患リスクの関係をみる


最後に、交絡バイアスを取り除くためメンデルランダム化解析を行います。


メンデルランダム化解析とは、遺伝子が完全にランダムに割り振られるということに基づいた分析手法です。


今回は、先にみた健康状態の指標となる6つの要素(喫煙習慣の有無/BMI/身体活動量/野菜摂取量/赤身肉摂取量/健康状態(自己申告))に関係しない、弱いアルコール分解能にまつわる遺伝子を選び出し、371,463人の被験者を再選定、そのうえで心血管疾患リスクの関係をみた。


すると、Jカーブは存在せず酒類消費量の上昇に伴い、指数関数的なリスクの上昇が確認された。


つまり、少量であってもお酒が心血管疾患リスクを高めるという結果になった。


結局のところ、お酒は?

では、お酒はやっぱり健康を害するものなのだろうか?


その正否は実はまだ出ていない。


先のアメリカの研究についても、


今回注目した遺伝子が心血管疾患にも影響を及ぼす可能性は著者自身否定しておらず、またあくまでアルコール分解能にまつわる遺伝子はアルコール摂取について間接的なものであることについても認めており、今後の研究課題として挙げている。


またアルコール分解能が弱い人において、摂取がリスクを高めるものであったとしても、アルコール分解能が強い人において、同じ結果が得られるかどうかはわからない。


結局、我々としてはアルコールとの付き合い方に気をつけながら、自分にとって最善なお付き合い(それが付き合わないということであっても)を模索するしかないのだろうと愚考する次第だ。


参考サイト

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