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執筆者の写真alt-alc,ltd.

飲料界のフードテック







食×科学のフードテックについての書籍『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』が今月発売されました。


食糧危機や異常気象が騒がれる現代において、世界的に注目されるようになってきたフードテック。


しかし、そのフードテックが飲料業界でも進んでいることはあまり知られていません。


今日は飲料業界のフードテックについて簡単にご紹介させていただきます。


二日酔いのないアルコール:アルコシンス



お酒の心地よい酩酊感を与えてくれつつ、二日酔いや頭痛などネガティブな副作用がないアルコールがあれば...。


そんな夢のようなアルコールを創り出そうとしているのが、インペリアル・カレッジ・ロンドンの神経精神薬理学のデイビッド・ナット教授だ。


英国精神薬理学会や欧州神経精神薬理学会の会長職や、イギリス国防省・保健省・内務省の顧問も務めた経験もある、著名な精神科医および神経精神薬理学者です。


彼はアルコールの危険性について長らく説いてきたが、アルコールの魅力から人々を解き放つことはできないという結論に至り、アルコールそのものをアップデートするという考えにたどり着いたということです。


アルコールが人々を魅了するポジティブな効果をそのままに、有害な負の効果を取り除くことを実現するべく創り出されたものが、エタノールの代替となるアルコシンスです。


既に試験済みでその有効性も確認されていると言います。


しかし実用化には、費用面や制度面が障壁となっており、今しばらくの時間が必要ということです。


水からお酒を創り出す


もう一つの試みは、イギリスとは大西洋を挟んだ向こう側、アメリカで行われています。


お酒を分析機器にかけ、分子レベルでその成分を明らかにし、水にそれぞれの化合物を入れていくことでお酒を生み出すという、アルコシンスに負けず劣らずの画期的なチャレンジです。


元々はカリフォルニアにあるAva Wineryという研究所の$50でドンペリニヨンを再現という挑戦からスタートしております(この試みは頓挫)。


現在はEndless Westという名前に変わっていますが、既にモスカート・ダスティ(イタリアの白ワイン)や日本酒、ウィスキーを模した飲料を販売しております。


この手法で問題になってくるのは、微量成分です。


ワインをはじめとしたお酒の味わいや香りをここまで世界的に人気にしているのは、全体量からすると1%にも満たない微量な成分であることがほとんどです。


またタンニンなどのポリフェノールについては、まだまだ未解明の部分が多く、完全に再現することが現代科学では難しいのが現状です。


しかし、当編集部が都内の某大学教授に、このようなアプローチを用いてのアルコールの再現が可能かとうかがったところ、


「そのワインボトル一本のその瞬間を切り取って、再現することはおそらく可能」


というご意見を頂きました。

*再現したワインを寝かせても、熟成のようなことは起きないという意味での「その瞬間を切り取って」という表現だそうです。


しかし、当然一本作るための費用は1億はくだらないのではというご意見でした。


ドリンクテックの行方

どちらのテクノロジーも非常に突飛で眉唾ものに思う方もいるかもしれませんが、


ドリンクテックの意義は非常に多岐にわたります。


  1. 健康面:アルコール中毒などを将来的に減らす/根絶することができる

  2. 環境面:水資源・土地資源をより喫緊の問題に回すことができる

  3. 文化面:芸術まで高められた飲料文化を保護することができる


1番については、先の話で分かっていただけたのではないかと思います。

アルコシンスが実現すれば、アルコール中毒や依存症は過去のものになるかもしれません。



2番目については、Endless Westのような畑を必要としない、このようなアプローチは従来よりも、水資源・土地資源・空気資源に資するという特徴を持っています。


実際、Endless Westのモスカート・ダスティは従来のワインを造るよりも水の使用を95%削減でき、80%未満の土地で製造可能で、さらに二酸化炭素排出を40%抑えることができます。


異常気象や食糧難がより逼迫したものになってくれば、品質を上げるために収量を落とすような現在ワイン産業で取られているアプローチは難しくなってくるかもしれません。


あるいは、そもそも嗜好品のために環境資源を使うこと自体難しくなるかもしれません。


そのような中で、一部このようなアプローチに変更していくことは意義深いことなのかもしれません。


最後の文化的側面についても、環境問題の深刻化あるいは、そうでなくとも著名な醸造家の死去により失われるはずだったものを、データとして残すことができれば、永遠にその味を楽しむことができるかもしれません。


それはちょうど、わたしたちが音源を通じて今は亡き作曲家の楽曲を楽しむことができるのことと似ているかもしれません。


どのくらいの時間がかかるかはわかりませんが、2050年頃には今とは全く違う飲料業界図が広がっているのではないでしょうか?


参考サイト

"SYNTHETIC ALCOHOL: Creating A Healthy Alternative Drink For The Future | David Nutt On London Real" YouTube

"Scientist Says Alcohol Will Be Gone “in Another 10 or 20 Years”" thrillist

Endless West


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