新しいノンアルコール文化が始まった2015年、その少し前の2010年前後からテック業界でもノンアルコールの波は来ていたようだ。
これまでアルコールと距離を置こうという人はアルコホーリクス・アノニマス(通称AA)のような共通の悩みを持った人々による自由参加型の会合などを通じて、悩みや苦しみを共有するのが常だった。
しかし、こういった会合に参加した人の中で、従来の方法に疑問を感じる人々が現れはじめ、ITを利用してこの問題に対処をはじめている。
ポイントは二つ
アクセシビリティに対する疑問
断酒に対する方法論に対する疑問
1.アクセシビリティに対する疑問
アクセシビリティという点においては、金銭面におけるアクセシビリティと物理的地理的アクセシビリティが問題に挙げられている。
先にあげたAAなどは異なるが、アルコール依存症から立ち直るためのプログラムに入るには、数十万、場合によっては数百万の費用がかかる場合がある。
以前見てきた資料でも、ビンジ飲酒は低収入者層の方が比較的多いというデータがあった。
そのような人がお酒から距離を置くためにどれだけのお金がかけられるだろうか。いわずもがな、限界がある。
もう一つの物理的地理的アクセシビリティという点は、もっと考えやすいだろう。
AAなどの会合が行われる大都市、中規模都市などであれば、参加も用意かもしれない。
しかし、そのような集まりやプログラムが組めないような地域にいる人は、どのように問題に対処していけばよいのだろうか?
2.断酒に対する方法論に対する疑問
例えばAAは、12のステップなる独自の方法論を持っているが、当然より実践的な方法論を好む人は多くいる。
また会合の中では利他精神が求められ、アルコールと距離を取ることに成功した人は、次の参加者の手助けをすることが推奨される。
しかし、見知らぬ他人を助けるよりも、自分の家族や身近な人にこれまでの恩を返したいと思う人が多いというのは十分理解できる。
そのような背景の中2010年頃から注目されるようになってきたのが、テクノロジーを利用した方法論の提唱である。
テクノロジー利用の一番のメリットは、ビックデータを利用できるところにある。
たとえば、2010年にシドニーでスタートしたHello Sunday Morningは断酒や節酒といった行動変化を促すアプリを出したが、ユーザーの個々人の行動記録をAIを通じてディープラーニングさせ、情報を蓄積し、個々人に最適なプログラム作りをウリとしている。
また、She Recovers というグループは、ペンシルベニア大学が組織する断酒を望む人々のオンラインコミュニティーやサウスハンプトン大学と共同することで豊富なデータを最大限効果的に活用している。
もちろん、先に挙げた二つの問題点、アクセシビリティや方法論についても独自のブラッシュアップをしている。
アクセシビリティについては、オンラインで運営を行うことで固定費を大幅に削減し、プログラムを従来と比較すると非常に安価に提供し、また言うまでもなくどこにいてもサービスが受けられ、必要であればチャットサービスも充実している。
方法論も、より実践的なものになっており、例えば1000万ドルの資金を集めたTempestという団体は、各週ごとに下記のようなプログラムを用意している。
Tempest Syllabus Week 1: Recovery Maps + Toolkits Week 2: Addiction & The Brain Week 3: Habit and Night Ritual Week 4: Yoga, Meditation and Breath Week 5: Nutrition & Lifestyle Week 6: Relationships & Community Week7: Trauma & Therapy Week 8: Purpose & Creativity Week 8+ Wrapping Up + Next Steps
実体験を体系化したものから、AIなどアルゴリズムを使って最適解を見出そうとする手法など方法は様々だが、新しい可能性がテクノロジーを通じて、探られていることは間違いがない。
参考サイト
"The new wave of sobriety start-ups shaking up the 12-step model" abc news
"Startup says ‘Sober is the new black’" Tech Crunch
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