スピリッツでもワインでもシュラブでも、多くの飲料において抽出は大事な要素になる。
抽出の方法は味わいに大きな影響を与え、生産プロセスでも時に大きな時間を占める。
ノンアルコールにおいても、ハーブやスパイスといったボタニカルが多く使われるようになってきた昨今において、改めて抽出の方法やそれぞれの特徴を抑えておくことにが大きな意味があるように思う。
抽出の基本
抽出とは、果実やハーブ、スパイス、穀物のような香味料をアルコールや水、ビネガーなどの液体に浸け込みフレーバーや味わいを移す作業のことである。
基本的な原則として以下の八つをおさえておく、
温度が高いほど、抽出は早く進む
温度が高いほど、苦み成分の抽出は早く進む
温度帯により、抽出される成分は変化する
抽出の時間が長いほど、多くの成分を引き出せる
空気の逃げ道がある開放系(ポット等)だとフレーバーは薄まり、逃げ道のない閉鎖系(ジップロック等)だとフレーバーは強まる
用いる液体により抽出速度は変化する(高濃度アルコールが最も抽出に適する)
加圧することで、抽出速度は変化する
多くの香気成分はエタノールによく溶け、水には溶けない性質を持つ
これを踏まえて、いくつかの抽出方法を見ていく。
Whipping Siphon
Whipping Siphonは、フレンチ・キュリナリー・インスティテュートのデイブ・アーノルド氏によって広められた技術であり、"Rapid Nitrous Infusion"とも言われる。
機器内で高い圧力をかけることで液体は香味料の固体に入り込み、圧力を解除することで香味料に入り込んだ液体は香気成分を抽出しながら、再び固体から出てくる仕組みとなっている。
Whipping Siphon自体は、水よりも脂質によく溶ける亜酸化窒素を用いて、ソーダを作ったり、泡沫上にしたり、抽出を行ったりすることのできる装置である。
装置に香味料と抽出用の液体(常温が好ましい)と亜酸化窒素を加え、15秒から30秒ほど攪拌させる。1分半~3分ほど置いたのちに、泡立ちが消えたのを確認して、濾過する。
この方法は、抽出の方法の中では最も素早く行うことができ、完成した抽出液は苦みが抑えられており、アロマも華やかで繊細な仕上がりとなるのが特徴である。
Sous Vide
Sous Videは低温調理法(Low-Temperature Precision Cooking)とも言う。
香味料と液体を詰めた瓶を温水に沈め抽出を促す方法である。
この方法は非常に単純である、抽出液がビネガー、水、アルコールなどである場合は、温水は55度~71.1度に設定し、油の場合は65度~80度に設定する。
そこに、香味料と液体を詰めた瓶を、ビネガーやアルコールの場合は1~4時間、油の場合は3~12時間浸け込む。
浸け込みが終了したのちは、瓶を冷却し濾過する。
上述した基本原則のように、温水の温度により抽出速度と抽出物は変化し、長い時間をかけて抽出するほど、様々な香気成分が抽出される。瓶に詰める閉鎖系であるため、フレーバーのロスは起こらないというメリットがある。
Fat Washing
Fat Washingはアルコールにのみ用いられる抽出方法である。
加えたいフレーバーを持った脂質をアルコールに浸け込み、攪拌させ、1時間ほど置いたのちに、脂質を分離するまで冷凍する。脂質が凝固したら、綿布やコーヒーフィルターなどを用いて濾過する。
グリセリンの使用
最後にノンアルコールの抽出で使われるグリセリンについて、簡単にふれておく。
グリセリンは、炭素・水素・酸素からなる、動物性脂質や植物性油に由来する化合物である。甘みを有しており、しばしば甘味料として使われるが、その他にも石鹸や薬品、コスメ用品などにも用いられる。
アルコールを用いた抽出とグリセリンを使った抽出を比較すると、所要時間はアルコールの方が短く、またアルコールとグリセリンでは抽出の際の物質も異なる。
また、アルコールは抽出過程でタンパク質や酵素を変性させるが、グリセリンはそのような成分変成を行わないという違いもある。
一方、グリセリンも、アルコールと同じく微生物の成長を抑止する働きを持っているため、常温での保管が可能となる。
アルコール、ノンアルコール問わず、世界的にこれまでなかった様々な飲料が登場している昨今において、いかに浸漬して抽出していくかは、その製品の品質や個性を決める非常に大事なポイントとなる。
抽出をはじめ、蒸留法など今後もそれぞれの方法を簡単にまとめていきたい。
参照サイト
"Infusing Liquids and Foods" AMAZING FOOD
"How Whipping Siphons Work" MODERNIST CUISINE
"How to Make Non-Alcoholic Extracts" the spruce eats
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