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オーガニック市場の持続可能性

執筆者の写真: alt-alc,ltd.alt-alc,ltd.




昨今、「サステイナビリティ」、「持続可能性」というワードはあちこちで見かけるようになった


前回の『オーガニック市場の現状と展望』で見てきたように、オーガニック市場は前途洋々に思えるが、今回は、そんなオーガニック市場の持続可能性について思いを巡らせてみる。


ただし、持続可能性といっても有機農法のエコフレンドリーさを語るのでなく、オーガニック市場を考える際に避けては通れない外的要因から、本当に今後もオーガニック市場が持続していけるのかを考えてみる。


思うにオーガニック市場は左右二つのアキレス腱を持っている。


  1. 気候変動:オーガニック作物が気候変動に与える影響

  2. 人口増加:食糧需要増加の中でのオーガニック市場の存続


気候変動

有機農法を進めていくことで生じる気候変動への影響のことである。


スウェーデンの研究によると、有機農法で栽培されたエンドウ豆は通常の農法で栽培されたエンドウ豆よりも50%以上も大きく気候に影響を与えることが分かっている。冬小麦の場合は、この数字は70%近くまで大きくなる。


単位面積当たりの収量が少ないオーガニック作物の場合、同等の収量を得るためにより大きな農地が必要になってくることが、これの主要因である。


つまり、従来通りの収量をオーガニック作物で期待すると、より広大な土地とそのための森林伐採、それに伴うCO2排出の増加が引き起こされるということである。


より広く食肉などにまでオーガニックが求められる昨今においては、これまで以上の農地が必要となることになる。


もちろん、いったん農地にしてしまえば、通常の農法よりは有機農法の方がCO2など温室効果ガスの排出は抑えることができるが、短期的にCO2排出が増加することは理解しておくべきかもしれない。


人口増加

世界の人口は2050年までに92億人に膨れ上がると言われている。

これはおよそ20億人の人口増加とそれに伴う食糧需要の増加を意味する。


しかも、92億人の人口は現在よりも水資源などが乏しい状態で迎えることとなる。


こうした食糧事情の変化にあって、オーガニック作物は贅沢品となり、より収量の高い作物が中心になるのだろうか。



食糧供給と食の安全という二点を踏まえて、オーガニッ作物と遺伝子組み換え作物(以下GM作物)を比較してみていく。



►GM作物について


GM作物の登場は1994年のアメリカである。

以来、先進国・発展途上国ともにGM作物の生産量は伸びていった。


下図が示すように、現在では発展途上国でより手広くGM作物を使った農業は行われている。


"A World without Hunger: Organic or GM Crops?" sustainability 2017

GM作物を採用することのメリット・デメリットは以下が挙げられる。


メリット

  • 単位収量の増加

  • CO2排出量の減少

  • 化学農薬の使用量減少

  • 農家の所得向上

デメリット

  • 既存生態系への影響

  • 一定の規模を必要とする


GM作物は基本的に病気や虫への耐性をつけて、より効率的に収量を増加させることを目的として作られている。そのため単純な収量増加と農薬の使用減による所得向上につながる。


一方で、GM作物は栽培の過程で組み換え遺伝子を野生の植物に移すことがある。これが強耐性を持った雑草などを生み出し生態系を脅かす場合がある。また、小規模に行うとメリットが活きないという問題もある。



►オーガニック作物について


では、オーガニック作物のメリット・デメリットを見ていく。


メリット

  • 環境に優しい点(生態系保護、水資源・土壌保全、温室効果ガス減少)

  • 高い利益率

  • 小規模でも可能

デメリット

  • 収量が少ない

  • 知識集約的な性格を持つ


環境に及ぼす好影響については、疑問の余地はないだろう。通常の農法よりも有機栽培の方がおよそ30%高い生物多様性を確保できるという研究もある。


また、オーガニック作物は食の安全が重視される昨今においては、大きなセールスポイントであり、高価格・高利潤の確保が望まれる。


そして、GM作物と異なり小規模からでもスタートできる点は強みかもしれない。


一方で通常農法と比較すると、およそ25%収量が少ないとされており、それぞれの地域にあった個別の知識が求められる知識集約的な性格も難しさの一端といえるかもしれない。


►共存共栄の道


こう見ていくと、


収量は高いが害のあるGM作物 VS 自然に優しいが収量の少ないオーガニック作物


のような二項対立を思い浮かべるかもしれない。


しかし、GM作物の組み換え遺伝子による身体的な害の報告はこれまでなく生態系への影響という点も通常農法でも当然出てくるものもある。


一方、オーガニック作物も小規模な乾燥地などでは、通常農法よりも収量が上がるという結果も出ている。


つまり、かならずしも安全と効率性はトレードオフというわけではなく、またGM作物とオーガニック作物もゼロサムゲームということにはならないようだ。


ゆえに、耕作する作物、農地の環境要因などを見定めながら、GM作物とオーガニック作物を使い分けることで、通常の農法よりも食の安全と十分な供給をまかなえることができるのである。


►補足


言わずもがなかもしれないが、この手の研究には様々な説がある。


オーガニック作物の栽培だけで今後の人類を養っていくだけの十分な供給力があるとする見方もあるし、GM作物のデメリットを1ダースも2ダースも挙げている研究結果もあるかもしれない。


あくまで、こういった考えも一つある程度に思っていただければと思う。


オーガニック作物の将来

気候変動と人口増加という地球規模の二大トピックであるので、今回はざっくりと見ていったに過ぎないが、オーガニック市場がこれら二つのために規制されたり、自粛されたりということは案外なさそうである。


特にオーガニック作物の栽培については、まだまだ研究や調査が不足していると言われており、これは裏を返せば今後の研究でより効率的な有機農法の在り方が見えてくるということかもしれない。


当面は、GM作物やオーガニック作物への緩やかな移行、適材適所でのそれぞれの農法の実践が主流になっていくと思われる。


参照サイト

"Organic food worse for the climate?" ScienceDaily Chalmers University of Technology

"A World without Hunger: Organic or GM Crops?" Fatemeh Taheri, Hossein Azadi, and Marijke D’Haese

"ORGANIC AGRICULTURE AND POST-2015 DEVELOPMENT GOALS BUILDING ON THE COMPARATIVE ADVANTAGE OF POOR FARMERS"

Sununtar Setboonsarng, Anil Markandya

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