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2019年10月14日

日本におけるオーガニック市場

前回、前々回と世界規模でのオーガニック食品市場を見てきたが、今回は日本におけるオーガニック市場を見ていきたい。

国内オーガニック食品市場の推移

日本におけるオーガニック市場は世界に比べると非常に緩やかで、2013年から2017年までの成長率は5%にも満たない。

将来予測で見ても、2017年から2022年は10%ほどにとどまっている。

『オーガニック市場の現状と展望』で見たように、将来予測では世界のオーガニック市場規模はおよそ3倍ともいわれ、それをアメリカや欧州(特にドイツ、フランス、イタリア)が牽引している。

つまり、グローバルな視点から見ると、日本の市場成長率は決して高い方ではない。

また、市場規模という観点でも、

上図を見てもわかるようにまだまだ大きな市場とは言い難い。

ではなぜ日本のオーガニック市場は、他の先進国と比較して遅れをとっているのであろうか?

考えられる理由を一つずつ見ていきたい。

  1. 国産食品への安心感が強い?

  2. 国土面積の問題?

  3. 価格が高い?

  4. 農業関係者が少なく、知識が浸透していない?

1.国産食品への安心感が強い?

2010年代初頭に農林水産省によって行われた全国アンケート調査によると、一般消費者の70%近くが農産物を購入するときは「できるだけ国産農産物を購入」すると回答している。

「日本どちらかというと国産農産物を購入」すると回答した人と合わせると95%以上が国産品を意識的に選んでいることになる。

つまり、日本においては慣行食品対オーガニック食品という比較よりも、国産食品対輸入食品という比較がより安心安全を意識させる要素となっているのかもしれない。

一方で、海外で行われているCOO effect(原産国認証効果)の実験では、原産国はさほど注視されていないことがわかっている。

2.国土面積の問題?

前回の『オーガニック市場の持続可能性』で、有機農法が従来農法よりも広大な農地が必要になることを見てきた(*同量の供給量を実現する場合)。

そもそも、食糧自給率の低い日本で狭い国土の中、有機農法を実施する余裕がないのではないか。

総農地面積のうち、有機農法が実践されている農地の割合、有機農業面積比率を比較してみると、

オーストリア(15.7%)、スウェーデン(9.9%)、イタリア(8.9%)などはとりわけ高い方であり、EU全体では4%強。

日本の有機農業面積比率は0.17%しかない。

そもそも、需要が少ないので供給が育ってないのか、供給環境が整っていないので需要が育たないかは定かではないが、国土面積という要因は無しには語れないように感じる。

3.価格が高い?

国内供給が少なく、国産オーガニック食品は価格が高い、

輸入のオーガニック食品もコスト高になっており、価格が高い、

そのためにオーガニック市場は他国に比べて小さくなっているのか?

というのが、三つの目の検討事項である。

これについては、日本とオーガニック大国ドイツを比較した研究がある。

ドイツと日本(仙台)のスーパーにおける慣行品とオーガニック品の価格を比較したものである。

簡単に言うと、オーガニック食品の割高感をドイツと日本、それぞれで比べたものである。

日本における慣行食品と有機食品 比較

ドイツにおける慣行食品と有機食品 比較

それぞれ、上図が食品ごとの全種類比較で、下図が価格の高い慣行食品25%と有機食品の比較である。

こう見てみると、決して日本のオーガニック食品が割高ではないことがわかるのではないだろうか(レーズン除く)。

よって、価格がオーガニック市場成長の阻害要因となっているという可能性は低いように思われる。

4.農業関係者が少なく、知識が浸透していない?

最後は、日本には農業関係者が少ないためにオーガニックなどの知識が普及していないのではないかという可能性である。

しかし、これは一部は簡単に誤りであるとわかる。

というのも、帝国書院が出しているデータによると日本の第一次産業比率は3.4%(世界147位)であり、農業大国と言われるフランスは2.6%(世界154位)、アメリカ1.4%(世界165位)、ドイツ1.3%(世界166位)と日本はむしろ第一次産業従事者数は多いからである。

*正確には第一次産業には漁業や林業も含まれるため安易な比較がどこまで許されるかはわからない

しかし、知識の浸透という点では先にみた有機農業面積比率の低さからも、たとえ農業従事者であってもオーガニック食品などに対してどこまで正確な知識を持っているかは不透明である。

推論

以上を踏まえて考えられる一応の結論は、

  • 日本の消費者は自国産品に対する信頼感が強く、これが食の安全を他の指標から見直す機会を妨げてきた。一方、供給サイドも自国の環境的要因から強くオーガニックを打ち出すメリット・必要性がなかった。このため、市場全体として未発達な現状にある。

ということになるだろうか。

しかし、今後食に対する原産国以外の指標を持ったインバウンド需要が見込まれるため、市場も変わらざるを得なくなるかもしれない。

参照サイト

『有機食品市場の展開と消費者—EUと日本の動向から—』

大山 利男, シェア ブルクハード, ハム ウーリッヒ, 酒井 徹, 鷹取 泰子, 谷口 葉子

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=12464&item_no=1&page_id=13&block_id=49

『2017年の国内オーガニック食品市場は前年比102.3%の1,785億円、年率1~2%増の成長が続く』株式会社矢野経済研究所

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2022

『雇用労働者産業別割合 〔2017年〕』帝国書院

https://www.teikokushoin.co.jp/statistics/world/index05.html

"Consumer Preferences for Country-of-Origin Labeling in Protected Markets: Evidence from the Canadian Dairy Market" Amanda Norris, John Cranfield

https://academic.oup.com/aepp/article/41/3/391/5544251

"Country-of-origin Effect on Consumer’s Product Preference of Labelled Organic Food"

Jing Dong

https://edepot.wur.nl/312638

『研究員レポート:EUの農業・農村・環境シリーズ第13回』

(社)JA 総合研究所 基礎研究部 客員研究員 和泉真理

https://www.japan.coop/wp/wp-content/uploads/2018/05/eu13.pdf